ジョー・R・ランズデール「ババ・ホ・テップ」;ミステリマガジン 2007年 01月号 [雑誌]収録

mike-cat2007-01-20



ブルース・キャンベル主演の「プレスリー VS ミイラ男」原作。
実は生きていた〝キング〟プレスリーが、
テキサスに甦ったミイラと対決する、バッド・テイストなコメディ・ホラーだ。

舞台はテキサス東部の片田舎。
老人養護施設で頻発する、入院患者の不審な突然死。
ファラオの呪いか、その不審死の影には謎のミイラ男が…
施設の平安を守るため、立ち上がったのはエルヴィス・プレスリー
〝キング・オブ・ロックンロール〟は、死んでいなかった−


このバカバカしさについては、映画のレビューでも書いたが、
さすがランズデール、である。小説はもっともっとバカバカしい。
エルヴィスの独白なんかは、ほとんど小説のままのようなのだが、
小説でじっくり読んでみると、つくづくこのお下劣度はすごい。
冒頭で、ショボい淫夢から目覚めたエルヴィス。
〝いつのまにか眠りから目覚めていた、
 ゆるんだ尻の穴からするすると出てしまう柔らかい便のように−
 エルヴィスは自分自身や人生を排泄物と結びつけて考えずにはいられなかった。〟
不気味な腫れ物にまみれた萎びたナニを眺めながら、人生最悪の瞬間を迎えている。


かつてセクシーの代名詞だった男も、いまはただの萎びた老人。
いまでは、看護婦には小馬鹿にされ、
見舞いの若い女からは何の脅威にも感じてもらえない存在となり果てた。
若い頃なら、ほんの微笑みだけで女に〝ケツの穴をなめさせることだってできたのに〟


なぜ、死んだはずのエルヴィスが生きている?
その顛末は誰にも信じてもらえない。
何しろ、同じ施設にはジョン・F・ケネディ(なぜか黒人)もいれば、
ジョン・ディリンジャー(なぜか女)もいるし、「ローンレンジャー」のキモサベだっているのだ。
いってみれば、かつての〝キング〟は単なるボケ老人扱いなのだ。


しかし、そんなエルヴィスが、立ち上がる。勃ち上がる方も込みで。
死にかけていた〝キング〟を甦らせたのは、
これまた古代エジプトから甦ったミイラ〝ババ・ホ・テップ(田舎者の王)〟。
〝きたならしいジーンズ。黒いシャツ、黒いカウボーイ・ハット。
 防止は眉毛があるはずの場所まで覆うほど目深にかぶっていた。
 大きなカウボーイ・ブーツをはいており、ブーツの爪先は反りあがっている。
 そして悪臭が漂っていた。
 堆肥を入れた泥、腐葉土、樹脂、腐った果物、乾燥した塵、
 ガスを発する汚水などが混じり合ったような悪臭だ。〟


映画ではブルース・キャンベルが好演した、
プレスリーの毒を吐くような独白も、最初から最後までイキっぱなし。
エロ・グロ・ナンセンスのすべてを内包したおバカ話は、
多少暴走気味に高いテンションを保ったまま、クライマックスまで進んでいく。


ランズデールといえば「ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)」「ダークライン (ハヤカワ・ミステリ文庫)」が最高にいいが、
バッド・チリ (角川文庫)」「ムーチョ・モージョ (角川文庫)」にも連なる、こうしたテイストも捨てがたい。
映画ではエルヴィスとノスフェラトゥとの対決を描く
〝Bubba Nosferatu and the Curse of the She-Vampires〟が製作されるようだが、
こちらの原作も早いトコ翻訳&刊行されないものだろうか。
いや、本当に最高の〝バカ小説〟だった。