森達也「東京番外地」

mike-cat2007-01-19



〝すぐそこにある、素晴らしき異空間〟
「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔 (角川文庫)」、
放送禁止歌 (知恵の森文庫)」の作者による、「波」連載の異色の東京街歩き。
〝猥雑な現場、過剰なスポット、忘れられた街角…
 人々が交錯するその場所に、僕は行く−。〟
独自の視点で切り取られた、東京の15の情景だ。


スポットを選ぶにあたっての条件は
〝過剰であることか気迫であること。
 つまり平均値から逸脱していること。あるいは自由であること。
 あるいは澱のように滞っていること。
 つまり、メガロポリス東京が文化の発展や爛熟を象徴するのなら、
 そのエアポケットのような地域や施設ということになる。〟という。


江戸初期の関東郡伊奈半十郎忠治の下屋敷から、
歴代将軍の御小休所、「小菅監獄」「巣鴨プリズン」を経て、
〝要塞へと変貌する「終末の小部屋」〟東京拘置所
かつて東京府癲狂院として創立された東京都立松沢病院に、
〝時代の波にたゆたう〟「眠らない街」新宿・歌舞伎町、
あしたのジョー」の「泪橋」のモデルとなった山谷のドヤ街
東京タワー、品川と場、上野公園、多摩霊園、
そして、〝「微笑む家族」が暮らす〟115万平米の森、皇居…


歴史的経緯にさらりと触れつつ、さまざまな事象に想いを馳せる。
皇居では、天皇版「電波少年」でアポなし取材を試みた経緯を思い起こし、
メディアにはびこる皇室タブーや思考停止について考えてみる。
横網公園の東京都慰霊堂では、靖国参拝で散々世間を騒がせておきながら、
十万人近い犠牲者を出した人類史上最大級の大量虐殺のひとつ、
東京大空襲を完全無視する小泉純一郎ら、政治家の矛盾を突く。
〝「異邦人たち」は集い関わり散ってゆく〟と題した、
入国管理局の章では、無意識で不気味な右傾化をたどる日本を思う。


映像出身の作家のせいか、活字に対する過剰な謙遜がかえってイヤミだったり、
2ちゃんねるでどう書かれたこう書かれた、との自意識過剰がかいま見えたり、
〝作家がカレーライスなのだから、担当編集者はラーメンあたりにすべき〟
などという、作家センセイぶった笑えないジョークが出てきたり、と鼻につく箇所も多い。
痴漢を妄想する自分と、実行した犯人の違いを〝大きい〟としながらも、
あくまでそれは〝濃淡〟と言い切ってしまう独特の考え方や、
ホームレス擁護の視点など、読んでいて同意できない点も多々見られる。


だが、それを考慮にいれても、この本は〝面白い〟と思う。
そこにあるのは、観光ガイドには出てこない、しかし紛れもない東京の断片。
読む前は知らなかった、知りえなかった東京の違った姿が見えてくる。
久住昌之, 谷口ジローの傑作「散歩もの」には及ばないが、
これはこれで、独特の魅力にあふれた1冊であると思う。


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東京番外地
東京番外地
posted with 簡単リンクくん at 2007. 1.19
森 達也
新潮社 (2006.11)
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