カール・タロウ・グリーンフェルド「史上最悪のウイルス 上―そいつは、中国奥地から世界に広がる」「史上最悪のウイルス 下―そいつは、中国奥地から世界に広がる」

mike-cat2007-01-17



〝戦慄ノンストップ! バイオノンフィクション〟
〝エボラを凌ぐ感染力 謎の伝染病の正体を暴け!〟
02年から03年にかけ、世界を恐怖に陥れた、
SARSを題材にしたノンフィクション。
ちなみに、はまぞうの表示だと1巻・3巻だが、
これは間違いで、上下巻の構成になっている。
文春文庫でも1918年のスペイン風邪を題材にした、
四千万人を殺した戦慄のインフルエンザの正体を追う (文春文庫)」が、
今月刊行されているんだけど、もしかして伝染病ブーム?


巨大都市化で〝野味の時代〟を迎えていた経済特区深圳
江西省から職を求めてきた方林が、ありついた仕事は野生動物料理の解体業。
住居はきらびやかな繁栄の裏側にある、不潔なスラム。
人を極度の低酸素症に陥れる謎の伝染病は、その深遠なる闇の中から現れた。
医療関係者や旅行者を媒体に、じわじわと広がっていく恐怖の病。
世界中のラボが伝染病の特定、そして対策を探るため躍起になるが、
全人代を目前に控えていた中国当局は、
予防措置をとるどころか、ひたすら情報の隠蔽に走るのだった−


作者は、ビクトリア湾と九龍を目下に臨む、
香港島にオフィスを置く「タイム」アジア版の編集長。
イラク戦争に世界の目が注がれる中、SARS流行の兆しをいち早くつかみ、
情報隠蔽を図る中国当局の裏をかいて、最悪の被害を防ぐ一助となった。


〝物語〟は冒頭に載せられた、
香港大学のウイルス学者 管軼の言葉に従って進められる。
〝ウイルスにかかわる問いは四つしかない。すなわち、
 それはなにか?
 それはなにをするのか?
 それはどこからくるのか?
 それをどう殺すのか?〟
深圳から広州、香港、北京、そして、世界へ−
SARS騒動がたどった顛末を知っている以上、
結末はわかってしまっているのが残念ではあるのだが、
一刻を争う緊迫感、そしてじりじり迫ってくる恐怖は、
まさしく一級のタイムリミット・サスペンスの様相を呈している。
それはエボラ出血熱を扱った「ホット・ゾーン―恐怖!致死性ウイルスを追え! (小学館文庫)」や、
ダスティン・ホフマン主演の「アウトブレイク [DVD]」を思わせる迫力だ。


そしてこのノンフィクションの恐ろしさはもう一つある。
瀬戸際で運良く堰き止められはしたが、
中国当局隠蔽工作が、世界を危機に陥れていたことがよくわかる。
一方で、その専制国家ぶりが、最終的には役に立った、という皮肉。
つくづく中国ってやつは…、と呆れてみたり、脅えてみたり…
昔、中国人全員が一斉に地面を踏みならしたら、地球は崩壊する、という、
まことしやかな冗談を口にしていたこともあったが、
人類を滅ぼすのは、やはり中国なのかな、とあらためて思ってみたりもするのだった。
そうして考えると、史上最悪のウイルスが、
史上最悪の国家からわき出てきたのは、むしろ必然だったのかもしれない。
(まあ、史上最悪はナチスドイツや東ドイツ北朝鮮と枚挙にいとまがないが…)


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史上最悪のウイルス 上
カール・タロウ・グリーンフェルド著 / 山田 耕介訳
文芸春秋 (2007.1)
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史上最悪のウイルス 下
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文芸春秋 (2007.1)
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