カール・タロウ・グリーンフェルド「史上最悪のウイルス 上―そいつは、中国奥地から世界に広がる」「史上最悪のウイルス 下―そいつは、中国奥地から世界に広がる」
〝戦慄ノンストップ! バイオノンフィクション〟
〝エボラを凌ぐ感染力 謎の伝染病の正体を暴け!〟
02年から03年にかけ、世界を恐怖に陥れた、
SARSを題材にしたノンフィクション。
ちなみに、はまぞうの表示だと1巻・3巻だが、
これは間違いで、上下巻の構成になっている。
文春文庫でも1918年のスペイン風邪を題材にした、
「四千万人を殺した戦慄のインフルエンザの正体を追う (文春文庫)」が、
今月刊行されているんだけど、もしかして伝染病ブーム?
巨大都市化で〝野味の時代〟を迎えていた経済特区深圳。
江西省から職を求めてきた方林が、ありついた仕事は野生動物料理の解体業。
住居はきらびやかな繁栄の裏側にある、不潔なスラム。
人を極度の低酸素症に陥れる謎の伝染病は、その深遠なる闇の中から現れた。
医療関係者や旅行者を媒体に、じわじわと広がっていく恐怖の病。
世界中のラボが伝染病の特定、そして対策を探るため躍起になるが、
全人代を目前に控えていた中国当局は、
予防措置をとるどころか、ひたすら情報の隠蔽に走るのだった−
作者は、ビクトリア湾と九龍を目下に臨む、
香港島にオフィスを置く「タイム」アジア版の編集長。
イラク戦争に世界の目が注がれる中、SARS流行の兆しをいち早くつかみ、
情報隠蔽を図る中国当局の裏をかいて、最悪の被害を防ぐ一助となった。
〝物語〟は冒頭に載せられた、
香港大学のウイルス学者 管軼の言葉に従って進められる。
〝ウイルスにかかわる問いは四つしかない。すなわち、
それはなにか?
それはなにをするのか?
それはどこからくるのか?
それをどう殺すのか?〟
深圳から広州、香港、北京、そして、世界へ−
SARS騒動がたどった顛末を知っている以上、
結末はわかってしまっているのが残念ではあるのだが、
一刻を争う緊迫感、そしてじりじり迫ってくる恐怖は、
まさしく一級のタイムリミット・サスペンスの様相を呈している。
それはエボラ出血熱を扱った「ホット・ゾーン―恐怖!致死性ウイルスを追え! (小学館文庫)」や、
ダスティン・ホフマン主演の「アウトブレイク [DVD]」を思わせる迫力だ。
そしてこのノンフィクションの恐ろしさはもう一つある。
瀬戸際で運良く堰き止められはしたが、
中国当局の隠蔽工作が、世界を危機に陥れていたことがよくわかる。
一方で、その専制国家ぶりが、最終的には役に立った、という皮肉。
つくづく中国ってやつは…、と呆れてみたり、脅えてみたり…
昔、中国人全員が一斉に地面を踏みならしたら、地球は崩壊する、という、
まことしやかな冗談を口にしていたこともあったが、
人類を滅ぼすのは、やはり中国なのかな、とあらためて思ってみたりもするのだった。
そうして考えると、史上最悪のウイルスが、
史上最悪の国家からわき出てきたのは、むしろ必然だったのかもしれない。
(まあ、史上最悪はナチスドイツや東ドイツ、北朝鮮と枚挙にいとまがないが…)
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