テリイ・サザーン「ブルー・ムーヴィー」
忙しい+体調いまいち+任天堂Wiiということで、
年末年始はどうにも本が読み進まないまま過ぎてしまった。
とはいえ、本は増えていくのである。
どんどん買ってるのだからごく当然だが、
まあ、それは不可抗力。(←真偽のほどはさだかでない)
とにかく、どうにかこの悪いサイクルを打破するには、
何らかのカンフル剤みたいな本が必要なわけで、
それには何かといったら、やっぱりエロだったわけだ。
新年早々、お下品そのものだが、それは不可抗力。(え?)
というわけで、表紙もそそるエロチック・コメディを1冊。
〝爆笑必至官能コメディの傑作が待望の邦訳。〟
「博士の異常な愛情」「イージーライダー」の脚本家による、
1970年作品は、まさしくオトコの夢の映画プロジェクトを描く。
〝企画・2度のオスカーに輝く天才監督
+出演・ハリウッドの美麗女優たち
=史上最高のポルノ映画プロジェクトがはじまった!〟
チャップリン、ベルイマン、フェリーニの伝統を継ぐ、映画作家<フィルム・メイカー>として、
世界に名を知らしめる若き天才監督、ボリス・エイドリアン。
〝近年に撮った十作中七作が、カンヌでパルムドール、ヴェネチアで金獅子賞を受賞、
ほかにも映画祭や批評家集団の、およそ考えつくかぎりの賞を総なめにしていた。
加えて、どれもみなヒットした。彼の作品の才気、美(そして興収上の魅力)は赫奕として否みがたく、
ついにハリウッドの骨髄そのものにまで浸透した。
かくて近作二作は念願のオスカーを獲得し−要するに、目下絶頂期〟な、
〝キング・B〟の最新作は何と、完全無修正の「ブルー・ムーヴィー」。
しかし、世界の名匠が演出するのは、ただのポルノ映画ではない。
当代きってのセックス・シンボルに、大物作家による優れた脚本、
最高のプロダクション・デザイナー…。そう、〝最高〟のポルノ映画だった−。
ということで、トンデモ・プロジェクトをめぐるドタバタが展開されていく。
しかし、「さしずめ、いまの映画界でいうなら」と書きかけて、はたと気づく。
まあ、ボリスにはクリント・イーストウッドあたりでもよかろうが、女優が思いつかない。
アンジェリーナ・ジョリー、キャメロン・ディアズだと、もう盛りを過ぎた印象も強いし、
リース・ウィザースプーンも個人的には好きだが、セックス・シンボルじゃない。
旬でいえばジェシカ・アルバか、ジェシカ・ビールだろう。
もしこの2人の無修正ポルノ(それも高品質)が観られるなら、もう最高だが、
世界的な知名度、なんかで考えると、まだいまいち微妙な気もしてしまう。
まあ、そんな妄想ばかり膨らませても仕方ないので、ひとまず閑話休題。
しかし、絶頂期にある天才監督がなぜ、ということになる。
もちろん、単に女優の裸が見たいわけではない。
そこは映画監督、見るだけ、何かをするだけなら、個人的にできる。
もっと深いレベルの苦悩があってこその、ポルノ映画なのだ。
〝彼の認識するところ、映画における表現の自由と進歩は、
つねに文学に後れをとり、近年までは演劇よりもまだ後れていた。
現代のあらゆる散文形式においては、
高度に美的勝つ創造性あふれるエロチシズムが豊穣をきわめているのに、
映画でそれが達成されていないのは、
いや、真剣な努力さえなされていないのは、いったいなぜか。
フィルムという媒体には、エロチシズムと本質的に相いれないものがあるのだろうか。〟
エロにもいろいろあるものである、と感心してしまうような苦悩である。
そして、次なる悩みは、何をもって最高のポルノとするか。
ただ、表象されるだけ、暗示されるだけのアングラ映画では意味がない。
いわゆるAVにあたる、スタッグ・フィルムの滑稽さには、ボリス自身も辟易している。
「どうして本当にいいもの−文句なしにエロチックで美しいものをつくれないんだろう」
そしてたどり着く結論が、これである。
「もしもスタジオの条件のそろったところで撮ったとしたらどうだろう。
長編、カラー、美男美女の俳優、完璧な照明、強力なプロット…それならどんなものができるだろう」
芸術っぽく裸を撮るのではなく、
ポルノそのものを芸術の域に昇華するという、うれしくも突飛な発想だった。
そんなわけで始まる、最高のポルノ製作物語なのだが、
実際読み進んでいくと、こちらの期待していたものとは微妙にずれた感も否めない。
純然たるコメディとして描いてしまったせいか、ポルノ場面に説得力がないのである。
別に官能小説じゃないのだから、濡れ場濡れ場の連続じゃなくてもいいのだが、
やはり濡れ場のクオリティというのは大事なわけで、
その部分でいくと、この小説はいまいち微妙な評価にせざるを得ないのだ。
もちろん、こういうものは個人的な嗜好にもよるのだろうが、
可能な限り客観的な視点に立ってみても、
小説内で〝最高のポルノ〟が描かれているという評価は難しい。
そんなことを考えているうちにかわぐちかいじの「アクター」を思い出す。
かつての岩下志麻×全盛期の菊池桃子をモデルに描かれた、
「色欲魔道・四谷怪談」の映画製作を描いたパートがこの小説に近しいイメージだ。
何でトップアイドルでポルノだ? と訊かれた監督の一言が簡潔でいい。
「だって、あなただっておっぱい見たいでしょ?」
かくして、リアルな臨場感で描かれた作品は、最高の盛り上がりを見せる。
間違いなく、あのマンガで描かれた映画は〝最高〟のポルノ映画だったはずだ。
話がまた寄り道したが、「ブルー・ムーヴィー」に戻る。
いろいろ書いては見たが、
アメリカン・ニューシネマ以前のハリウッドを描いた、風刺コメディとしては、まずまず悪くない。
しかし、全般的な評価としては、必読! とか、傑作! とはいえそうにない。
まあ、ちょっと興味があったら、読んでもいいんじゃない? 程度の作品。
もちろん、過剰な期待は禁物、ということもお忘れなく。