蒼井上鷹「ハンプティ・ダンプティは塀の中 (ミステリ・フロンティア)」
東京創元社《ミステリ・フロンティア》の最新刊。
〝「九杯目には早すぎる」の新鋭が贈るおかしな謎解き合戦〟
〝本書の舞台である、逮捕された被疑者を拘禁するために
警察署の中に設置された施設とは、次のうちどれでしょう?
①留置場②拘置所③土壇場④刑務所〟
そう、この小説のハンプティ・ダンプティがいるのは塀の上、ではなく塀の中。
留置場という非日常の中で繰り広げられる日常ミステリ、だ。
留置場という設定は、拘置所や刑務所と違い、
塀の中だが比較的自由がきく、というのところがポイント。
第一留置場で出会った〝ワイ〟に〝デンさん〟、
〝ノブさん〟〝ハセモトさん〟そして〝マサカさん〟…
お互いが抱えるさまざまな〝事情〟を解決すべく、謎解きが始まるのだ。
第一話の「古書蒐集狂は罠の中」では、
古書マニアのハセモトさんにまつわる謎に〝ワイ〟たちが挑む。
巨大な坊主頭に小さな黒い目、というハンプティ・ダンプティが初登場する。
「コスプレ少女は窓の外」では、
留置場の窓から見えるメイド風の少女の謎がふりかかる。
しょこたんを思わせるアイドルの目的は一体何なのか。
「我慢大会は継続中」では、
ドラッグ所持で捕まったトマベさん(トリップ継続中)にまつわる謎解き。
「アダムのママは雲の上」では、
偽イラン人〝ハッサン〟と、留置場の住人たちの奇妙な邂逅が描かれる。
そして「殺人予告日は二日前」では、
〝マサカさん〟に降りかかったとんだ災難の顛末が描かれる。
日常ミステリにはありがちだが、
ちょっと理屈が勝ちすぎているというか、推理には強引さも目立つ。
ただ、この小説の味は、むしろ推理より雰囲気だろうか。
留置場の最大の娯楽、〝話〟が転がっていくさまを楽しむのが本筋なのだろう。
お楽しみを取っておくべく、「いつか話してやるよ」なんて会話がまた、
それぞれワケありな連中の謎めいたムードを醸し出していて、なかなかいい。
クオリティとしては「文庫で十分」の域を出ないが、そう悪くない1冊ではある。