梅田ガーデンシネマで「ヘンダーソン夫人の贈り物」

mike-cat2006-12-26



英国ではそれまでご法度だったヌードを取り入れ、
ロンドン大空襲のさなかでも上演を続けた、
伝説の劇場の実話をもとにしたハートウォーミング・コメディ。
監督は「グリフターズ/詐欺師たち」や
「ハイ・フィデリティ」のスティーヴン・フリアーズ
脚本は「永遠のマリア・カラス」や、
ミュージカル「ベント」を手がけたマーティン・シャーマン。
英国の小品らしい、誠実な作りが印象的な作品だ。


舞台は1937年のロンドン。
夫のロバートを失ったヘンダーソン夫人は途方に暮れていた。
莫大な遺産こそあるものの、貴族階級の未亡人暮らしは退屈そのもの。
バイタリティを持て余し気味だった夫人はある日、
不況で閉鎖の憂き目にあっていたウィンドミル劇場を買い取ると、
やり手支配人のヴィヴィアン・ヴァンダムを迎い入れ、劇場の再興を試みる。
新機軸のミュージカル「レビュードビル」は好評を博したが、
すぐにほかの劇場が追随し、あっという間に赤字に転落してしまう。
だが、ヘンダーソン夫人は突飛なアイデアで事態の打開を図る。
それは、当時の英国では禁じ手だった「ヌード」の導入だった−


まず面白いのは「貴族の未亡人がストリップ劇場」というギャップだろう。
古い道徳観に縛られていた当時の英国で、よりによってヌード、である。
そこらへん、〝秘められた思い〟といいやつがあってなのだが、
これがまあ予想の範囲内ながらも、やはりなかなかに泣かせる。
もちろん、検閲を初めとするさまざまな困難に出くわす。
それでも、持ち前のバイタリティでそれを突破していく夫人の姿。
桐野夏生魂萌え !」同様の、爽快感を感じてしまう。


人前でヌードになるのを恥ずかしがるモデルたちとの場面がまた、笑えるのだ。
「わたしたちが脱ぐのなら、あなたたちも…」というくだりなのだが、
今月の「映画秘宝」で紹介されていた、
ポール・ヴァーホーヴェン@「スターシップ・トゥルーパーズ」のエピソードにそっくり。
もっとも、あちらのケースは、もっとヴァーホーヴェンらしいはっちゃけぶりではあるが、
このテの問題の解決は、やっぱり平等主義(?)なんだな、とちょっと感心する。


ヘンダーソン夫人を演じるのは「007」シリーズのMでお馴染み、
「恋に落ちたシェイクスピア」の名優ジュディ・デンチ
ユダヤ系オランダ人のヴァンダムを演じるのが「ロジャー・ラビット」のボブ・ホスキンス
デンチ&ホプキンスが醸し出す、
仲違いしつつも何だか惹かれ合う雰囲気が、とにもかくにもいい。
傲慢だけど憎めないヘンダーソン夫人と、強情なヴァンダムがお互い手を焼かせ合う。
仲違いの末、劇場へ出入り禁止をくらったヘンダーソン夫人のあの手この手も微笑ましい。
デンチが振りまく、あの年代の女性ならでは、のチャーミングな魅力は一見の価値ありだ。


助演陣も、そんな二人の名演に負けない魅力を発揮する。
英国の人気歌手、ウィル・ヤングが実生活そのままにゲイの歌手として登場。
花形スター、モーリーンには「スパニッシュ・アパートメント」のケリー・ライリー
ヘンダーソン夫人に手玉にとられる検閲官「ドッグ・ショウ!」のクリストファー・ゲスト
夫人をそそのかすレディ・コンウェイのセルマ・バーロウもいい味出している。


もちろん、ミュージカル映画ならでは楽しさも満載。
人魚や絵画などに扮したヌードのダブロー<活人画>と、
歌と踊りのコラボレーションは、どこか妙なペーソスを伴い、こころに響いてくる。
そして、戦争映画の哀しさと、それに立ち向かう意志。
しっかりと芯の通った物語が貫かれていることで、見応えも十分だ。
傑作というには地味すぎる部分もあるが、これまた愛すべき佳作。
前日の「リトル・ミス・サンシャイン」同様、年末にはもってこいの作品だろう。