加納朋子「モノレールねこ」

mike-cat2006-12-09



〝時を越えて届くあの頃からの贈りもの〟
〝儚いけど、揺るぎない− 「家族」という絆〟
ささらさや (幻冬舎文庫)」「てるてるあした」の加納朋子最新作。
「いい話系ファンタジー」に「ご近所ミステリー」風味を加えた、
(といっても、ミステリーではない)いかにも〝らしい〟短編集だ。
加納朋子、というだけで基本的に買いなのだが、
表紙のねこのイラストにも、ちょっとクラッときてしまった。


冒頭は、その表題作「モノレールねこ」。
〝そのねこは、デブで不細工で、ノラだった。〟で始まる一編は、
デブねこの赤い首輪が運ぶ手紙を通じた、子供の頃の淡い友情もの。
モノレールうんぬんは、そのねこが塀の上に座っている姿に由来する。
〝両脇から垂れた死亡でがっちりと塀をつかんでいる姿は、
 まさに「モノレール」以外の何物でもない〟
ううむ、うちのデブねこ(ミケではない=未公開)がそんな感じかも…。
かわいい!、と思って読み進めると、個人的にちょっと…になるが、
一般的な基準からいえば、悪くない作品じゃないかと思う。


「パズルの中の犬」は、
人待ちが苦手な〝私〟が手に入れた、真っ白なパズルをめぐる不思議なお話。
物語の中心となるのは、母との関係だ。
父を早くに亡くし、苦労して育ててくれた母を、
愛してはいるが、どうにも疎ましくもある〝私〟の苦悩。
〝時々、心底うんざりしてしまう。
 母は自分の物差しでしか、相手を測れない。
 支配することでしか関係を築けない。
 普段は穏やかなのに、突然、猛烈に攻撃的になる。
 落とし穴のような落差が、とても怖かった。〟
真っ白なパズルが思い出させてくれる、母娘の〝あの頃〟がこころに沁みる。


「マイ・フーリッシュ・アンクル」は、
交通事故で両親を失った中学生の〝私〟に唯一残された家族、
〝ダメでオロカで頼りない〟叔父さんにまつわるお話。
何もできない、何もしない、迷惑ばかりの叔父にも、こんな物語があった−
という、何とも締まらないが、何となくほっこりしてしまうような、味わい深い作品だ。


「シンデレラのお城」では、
ある偽装結婚が紡いだ、夢の世界を描く。
独り身の気楽さを知っていながら、
周囲の憐れみの視線とお節介に手を焼いた〝私〟は、
近所の呑み友達、ミノさんとの偽装結婚に踏み切る。
ミノさんの抱える、ある秘密を承知で同居を始めた〝私〟だったが…
哀しく、切ないけど、温かみに満ちた作品ではある。


「セイムタイム・ネクストイヤー」は、
バーナード・スレイドの同名戯曲をモチーフに、
地元で〝黄昏ホテル〟と呼ばれるホテルで、逢瀬を重ねる2人を描く。
ただし、戯曲の不倫カップルと違い、こちらは死に別れた母と娘。
生と死の境目にある黄昏の場所で起こった奇跡とは−
これは泣かせがトゥー・マッチな感もあるが、語りの巧さでやられてしまう。
浅田次郎の短編を、加納朋子の味つけで料理したような印象だ。


「ポトスの樹」でもダメ男が登場する。
モチーフは、ゴヤの描く「我が子を喰らうサトゥルヌス」
これが、絵に描いたようなロクデナシのクズオヤジ、である。
働かないとか、だらしないだけじゃない。
子供の貯金箱から小銭をくすねてみたり、
川で溺れかけた息子すら見て身ぬをする最低オヤジである。
だが、そんなオヤジが…、というお話は、
奇妙な諦観とほのぼのとしたトホホ…で、どこか心地のいい余韻を残す。
これ、さすが加納朋子、な一編じゃないかと思う。


「バルタン最後の日」の主人公はザリガニ。
公園から釣り上げられ、バルタンと名付けられたザリガニが、
それぞれに悩みを抱えた、ある気弱な家族を温かく見つめる。
話が見えていても、思わずほろりとくる一編だ。


以上7編。
人生、いいことばっかりじゃないけど、そう捨てたもんじゃない。
加納朋子の数々の作品とも相通じる、メッセージが読みとれるような気がする。
読みやすくって、ついつい流し読みしてしまいそうだけど、
大事に、大事に読み返してみたくなるような、あたたかさと切なさに満ちている。
加納朋子の最高傑作ではないかもしれないが、
ファンなら間違いなく、読み逃すことのできない1冊だと思う。



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モノレールねこ
加納 朋子著
文芸春秋 (2006.11)
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