樋口有介「探偵は今夜も憂鬱 (創元推理文庫)」

mike-cat2006-12-01



彼女はたぶん魔法を使う (創元推理文庫)
初恋よ、さよならのキスをしよう (創元推理文庫)」に続く、
柚木草平シリーズの第3弾が登場だ。
〝次々と舞い込む美女からの依頼。
 柚木を憂鬱に、そしてやる気にさせる三つの事件〟
というわけで、今回は「憂鬱」をテーマにした中編3本。
〝元刑事のフリーライターが事件に美女にと苦悩する、
 “38歳”の青春私立探偵シリーズ第三弾〟


事件あるところに柚木あり、
柚木あるところに美女あり、で、憂鬱まじりに事件を解決していく。
エステティック・クラブの美人オーナーに、
義妹の調査を依頼されたかと思えば、
芸能プロダクション社長からは、
美人女優の行方を探して欲しいとお願いされ、
雑貨店の美人オーナーからは、
死んだはずの夫からの手紙について依頼が届く。


この作品でも、柚木草平はダルめの毎日を送っている。
〝あと一週間で十月が終わる。だからどうしたということもないが、
 一週間の時間が過ぎればそれだけ人生も終わりに近づいていく。
 俺の人生なんかいつ終わっても構わないとは思いながら、
 生きている間は飯を食ってマンションの部屋代を払い、
 酒を呑んで馬券を買って、たまには女にだって惚れなくてはならない。〟
そのためにはどうでもいい殺人事件のリポートを書き、
受けたくない依頼を受ける。憂鬱を一瞬、希望に変える美女と生活費に釣られて…


とはいえ、読んでいる方からしたら、
次々現れる美女美女美女は羨ましい限り。
〝どちらも目を離すのに苦労するほどいい女だった。
 街ですれちがったら無条件に振り返ってしまうし、
 世間には羨ましい女、というのがたまにいるものだが、
 他の女たちから見ればこの二人は、腹が立つほど羨ましい存在だろう。〟
そんな美女たちと、ちょっといい関係になる期待があるだけでも、
まあ一般的に見れば、十分幸せなはずだ。


しかし、あっちでフラフラ、こっちでフラフラの柚木には、
時に手厳しい言葉も投げかけられる。
「柚木さんて女好きのくせに、女の本質を知らないのよね」
こんな言い草もあるらしい。
〝女の罰が当たって地獄へ落ちればいい〟
しかし、それでも柚木は懲りない男だ。
〝もしかしたら本当に地獄に落ちるかもしれないと、俺は少し心配した。
 病気だから仕方がないのだと言い訳をしても
 地獄では誰も、俺の理屈なんか聞いてくれない〟
とまあ、愚痴にも似た独白を繰り返すのだが、これがまた味でもあるのだ。


まあ、これだけ美女にめぐり会っていれば、
いいコトになっていないわけがないが、それでも生々しい場面は登場しない。
この、ちょっと匂わす程度、という塩梅も、
この作品の魅力を保つ秘訣なのだろう、と勝手に考えてみる。


長編と比べると、当然読み応え、という部分ではブツ切れ感もあるのだが、
それはそれで、軽く読むには悪くないテンポは保証されている。
まだまだ続きを読みたくなるこのシリーズ、
その気になればほかの文庫では出ているが、
しばらくは創元推理文庫のこの新装シリーズの刊行を待つことにしたい。


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探偵は今夜も憂鬱
樋口 有介著
東京創元社 (2006.11)
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