三崎亜記「失われた町」

mike-cat2006-11-29



となり町戦争」「バスジャック」の三崎亜記、1年ぶりの最新作。
〝この思いを伝えたい。たとえ明日すべてが失われても。〟
〝30年に一度起こる町の「消滅」。
 忽然と「失われる」住民たち。
 喪失を抱えて「日常」を生きる
 残された人々の悲しみ、そして願いとは。〟


「消滅」は、町という行政単位で起こる。
数万人の人々が、一瞬にして失われるが、避けることはできない。
原因は不明、予知も不明。
地震でいえば余震に当たる余滅を恐れ、
人々は「消滅」に関わることを「穢れ」として忌み嫌う。
消えた町についての記憶も、厳重な管理下で消し去っていく。
そんな「消滅」で愛する人を失った人、
新たな悲劇を防ぐため、「町」による汚染と戦っていく人々を描いた連作風の長編だ。


何ともヘンな設定の幻想小説がウリの、三崎亜記らしい作品。
でもオビにある〝三崎亜記がついに本領発揮〟には、
ちょっとばかり、賛同しかねる部分もあるかもしれない。
「となり町戦争」での不条理な戦争や、
短編集「バスジャック」で数々見られた独特のネタとして、
この「消滅」というアイデア自体は、とても興味深いと思う。
だが、率直なところ、短編どまりのネタじゃないか、という感も強い。


無理矢理長編にしようとするから、「穢れ」とか「消滅順化」といった、
「消滅」自体に関する諸々の設定が多少過剰になってしまう気もするし、
「分離」という別ネタを強引に(そう感じる)ねじ込んでしまう必要性が生じる。
「澪引き」とか「居留地」といったネタも同様。
ただでさえ、じっくりと「消滅」についてが語られていく展開なのに、
次々と別ネタが登場してくると、どうにもついていくのが苦しくなってくる。


もちろん、じっくりと読み進め、
そしておしまいの「エピローグ、そしてプロローグ」を読んだ上で、
もう一度冒頭の「プロローグ、そしてエピローグ」と読み返せば、
バラバラに散らばったパズルのピースがかみ合い、
物語の全体像とともに、その世界観やメッセージが見えてくる部分はある。
だが、それとてどうにもテクニカルな遊びに見えてきてしまうのだ。


現実社会に向かって訴えかけるような、さまざまなメッセージは印象的だ。
「実態もわからぬまま、憶測や偏見だけで
 消滅に関わる人々を差別するあなたの心の方が、よっぽど汚染されてますよ」
「人は時に理不尽に失われて、誰にもそれをとめることはできない。
 だけど私たちは、失われるその瞬間まで
 あきらめずに精一杯『生きる』ことを考えていきたい」
喪失と向き合い、喪失を受け入れ、そして生きていく人たち、
そして、自らを犠牲にしながらも、新たな悲しみへの連鎖を断ち切ろうとする人たち…
そんな姿にも、ありきたりのドラマ以上の感慨を覚えはする。


しかし、でずいぶん前のトコに戻るんだが、
やっぱり〝三崎亜記の本領発揮〟じゃないんだな、というのが率直な感想。
もっと切れのある、もっとインパクトのある、
もっと深みのある話が書けるはず、と勝手な期待込みで、
この作品は三崎亜記にしては平凡で、ちょっと詰め込みすぎな作品と評したい。
ハマる人はいると思うし、このテの凝った設定についていける人なら、
もっともっと違う評価もあるような気がするが、それはそれ人ぞれぞれ。
三崎亜記には、次回作品に期待ということで、とりあえずまとめてみた。



Amazon.co.jp失われた町


bk1オンライン書店ビーケーワン)↓

失われた町
失われた町
posted with 簡単リンクくん at 2006.11.28
三崎 亜記著
集英社 (2006.11)
通常24時間以内に発送します。