戸梶圭太「誘拐の誤差」

mike-cat2006-11-25



トカジ最新作は〝本格警察小説〟を宣言した、誘拐もの。
〝こんな警察小説が今まであっただろうか!?
 不可解な動機にスリリングな展開
 驚愕のラストにあなたは絶句する〟
本の外見だけに騙され、本当に本格警察小説、
と思って買ってしまったが最後、愕然とすること間違いなしだろう。
間違いなく保証できるのは、今までにない、という部分。
だが、警察ものの体裁は取っているが、
中身は良くも悪くも、いつも通りのトカジらしい小説だったりする。


舞台は茨城県の田舎町。
10歳の礼乎(れお)が突然、姿を消した。
失踪か、誘拐か。捜査を始めた警察だが、一向に行方はつかめない。
だが、礼乎が死体となって発見された1週間後、身代金要求の連絡が。
目的は? 犯人は? 迷走する捜査は地域全体を混乱に巻き込んでいく−


こうやってあらすじを書いてみると、なるほど普通っぽい。
息子を捜す母親、そして、トラブルに巻き込まれた礼乎が描かれる序盤も然り。
しかし、警察官・和久田の独白で始まる10数ページ目で様相はがらりと変わる。
(元ヤン夫婦かよ)(ま、ヤンキーのできちゃった婚ってやつだな)
そしてこう続くのだ
〝礼乎だ。レオ。
 親の神経を疑いたくなる。もし子供が死んで見つかったら、
 テレビも新聞も一斉に、レオ君、レオ君と連呼するのだ。想像しただけで寒けがする。
 真っ青な顔で取り乱している夫婦を見ても、和久田の心には何も響いてこない〟
まあ、真っ当な感覚といえば真っ当だが、
まともな警察小説では決して描かれることのない、危険な本音である。


ここから物語空間は、一気にぐにゃりとねじ曲がっていく。
いつも通りのバカ大集合。
脊髄反射レベルでしかものを考えないバカに電波系、
色ボケ、身勝手、引きこもり…、とトカジ・オールスターズで展開していく。
当然犯人も衝動系のバカだから、まともな捜査網には引っかからないし、
捜査する警察官もバカと差別主義者ばかりなので、
次々と無関係な人間(これもまた、ヘンなやつばかりだが…)が捜査線に浮上する。


そんなただのバカ話をある意味シュールな小説にしているのが、物語の語り手だ。
多少ネタバレになってしまうのだが、何と礼乎本人だったりする。
それも死んでしまった礼乎が、幽霊として事件の行方を見守る、というオチだ。
間違いなく〝本格警察小説〟としては許されない設定に、
思わず苦笑しながら読み進めると、何ともいえない味に、さらに苦笑が深まる。
死体が損傷していく姿や、被害者を顧みない家族や警察、
そして、犯人たちのあまりにも愚かな様子に、礼乎が何を思うのか。
もちろん、ありえない話ではあるのだが、思わず「そんなものかも…」と頷いてしまう。
事件の行方もそこそこに、あるものに夢中になるのも、ちょっとリアルに感じる。


驚愕のラスト、については、驚愕と銘打ってしまった以上はあまりショックは少ない。
むしろ、そのラストだけでなく、物語全体を通じても、
まあ意外に現実の世界ってそんなもんかも、という思いも否定できない。
微妙にリアルさに寒けを覚えるのは、いつものトカジ小説と同じ。
わざわざハードカバーで買ってまで読むような本ではないが、
文庫になったら、出張の移動時間にでもどうかね、という感じの1冊だろうか。


Amazon.co.jp誘拐の誤差―本格警察小説


bk1オンライン書店ビーケーワン)↓

誘拐の誤差
誘拐の誤差
posted with 簡単リンクくん at 2006.11.27
戸梶 圭太著
双葉社 (2006.11)
通常24時間以内に発送します。