ジェームズ.R・チャイルズ「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」

mike-cat2006-11-19



〝誰がどのように引き起こし、誰がどのように食い止めたのか?
 原発事故から高層ビル倒壊まで、メカニズムと人的要因をあぶりだす〟
スペースシャトル・チャレンジャー号爆発やスリーマイル島原発事故、
コンコルド墜落事故にチェルノブイリ原発事故、海洋石油掘削装置沈没事故…
さまざまな巨大事故を巻き起こした原因と、
そのメカニズムを探るノンフィクションだ。


昨年起こったJR福知山線脱線事故など、
あってはならない、ありえないはずの事故が相次ぐ昨今、
やはり気になるのは、なぜ、こんな〝最悪の事態〟を招くことになったか、だ。
事故調査委員会による報告が投げかける衝撃は、
常にどうしてそんな状態になるまで、誰も止められなかったのか、に尽きる。
で、この本だ。
「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」。
何のひねりもないくらい、そのまんまのタイトル。
さまざまな事件を取り上げ、文字通り〝何をしていたのか〟を探っている。


序章「より巨大に、より高エネルギーに」では、
最大800人を収容する巨大ジェット機A380の誕生や、
1400気圧にも達するタンクを擁する石油化学プラント、
八階建てのビルがすっぽり入る燃焼室を持つ火力発電所など、
巨大化するシステムの中で、平凡なミスが莫大な被害を招く危険性を訴える。


第1章の「信じがたいほどの不具合の連鎖」で取り上げるのは、
海洋石油掘削装置「オーシャンレンジャー」の沈没事故。
ありえないはずの事故を招いた、不具合やミスの連鎖を解明する。
続く第2章「スリーマイルアイランド原発事故」では、
内部の動きがチェック不可能な、原子炉という盲点を持ったシステムを取り上げる。
第3章「『早くしろ』という圧力に屈する」では、
お役所的な目標達成のノルマとプレッシャーに屈し、
「逸脱の常態化」が起こるまでの経緯をチャレンジャー号爆発墜落事故を例に考察する。


第4章「テストなしで本番に臨む」では、
ハッブル宇宙望遠鏡などを例に、
コストや試験適用範囲の間違い、そして結果のごまかしなど、
テストがテストとして機能しなかったために、起こったケースを取り上げる。
そして、「最悪の事故から生還する能力」と題した第5章では、
穴の開いたジャンボ機が無事生還したケースを取り上げ、
最悪の事態を乗り切った“奇跡”の要因を考察していく。
第6章「大事故を招く物質の組み合わせ」では
純酸素が招いたアポロ1号の火災を例に挙げ、
水や酸素、電気など事故を招く危険物質について説いていく。


第7章は「人間の限界が起こした事故」。
ここではチェルノブイリ原発事故を例に、
パニックや疲労などより人的要因にもとづく事故の危険性を取り上げる。
第8章「事故の兆候を感じとる能力」、第9章「危険に対する健全な恐怖」では、
ダイナマイトを生み出したアルフレッド・ノーベルらを取り上げ、
事故や危険を回避した要因についてを、さまざまなケースから追求していく。


逆に第10章「あまりにも人間的な事故」、
第11章「少しずつ安全マージンを削る人たち」では、
おなじみのオートマ車ペダル踏み間違えや、インドの殺虫剤工場の事故など、
事故を誘発するもっとも人間的な要因、うっかりや怠慢について説明していく。
そして第12章「最悪の事故を食い止める人間」では、
ここまで取り上げてきた例をもとに、いかにして事故を防ぐか、
被害を最小限にとどめるか、をまとめ、危険との共生について考えていく。


こうやって読んでいくと、何だかやっぱり事故は避けられないかな…、
などと考えてしまう面は多いのだが、やはり興味深い内容であるのは確か。
まあ、全体的にテクニカルな描写が多いため、
正直「よくわからん」という部分も決して少なくない。
読んでみようかな、という方はまず、訳者あとがきにある、
失敗知識データベースをのぞいてみるのもいいかもしれない。


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最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか
ジェームズ・R.チャイルズ著 / 高橋 健次訳
草思社 (2006.10)
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