戸梶圭太「バカをあやつれ!」

mike-cat2006-11-10



下流社会はつくりだせるか?〟
高知県の田舎町を舞台に、
激安ニッポンが行き着く、恐ろしい姿を描くトカジ最新作。
下町のタワーマンションにバカが大挙して攻め込んでくる
東京ライオット」に近しいテイストの、これまた問題作だ。
〝知的で裕福な人が読む本です!! (著者より)〟
挑発的な惹句に、思わず苦笑いを浮かべつつ、読み始める。


物語は、地域ぐるみのいじめに端を発する無差別殺人で幕を開ける。
これに食いついたのが、キャリア組の地元警察署長・川添祐太郎。
〝まともな教育を受けていないバカの狂った虚ろな目〟が大好きな川添は、
自分たち母子を村八分にした地元への報復を誓う町長と組んで、ある企みを実行に移す。
それは、ただでさえ激安な地元を、さらに激安化する、とんでもない計画。
町を〝どうしようもないバカ地獄〟に仕立て上げることだった−


オビにある〝バカ地獄の作り方〟はこんな感じ。
① 地元商店街の既得損益を破壊
② 巨大ショッピングモールを誘致
③ パチンコ店の構造改革
④ 風俗店営業の規制緩和
⑤ ホームレスが過ごしやすい町づくり
⑥ 犯罪者の再チャレンジ支援
ざっと読むと、悪趣味全開、まさしくタチの悪いブラック・ジョークだ。
さらに、小説の中身は、この6項目と微妙に食い違う部分もあるし、
現実の世界で「それはしないだろ(笑)」的な部分はもちろん、たくさんある。
しかし、そのバカバカしさを取り除くと、そこに迫りつつある、空恐ろしい現実が見えてくる。


ある場面で、こんな会話が登場する。
「今、この田舎町に何がある!」
「ショッピングモールとパチ家と金貸しとツタヤとマクドナルドと
 本番ありのヘルスと質の低いキャバクラと
 ヤンキー上がりのホストしかいないホストクラブ以外に何がある! 誰か答えろ!」
ブックオフがある!」
日本の平均的な田舎町で、これを笑い飛ばすのはかなり困難だ。
だって、実際にそれぐらいしか見当たらないことはしばしば…。
というか、ここに挙げられた項目ですらない田舎町は、ざらにある。


もちろん、この小説のような激安連中が田舎に勢ぞろいしているわけではない。
再犯必至の前科者にホームレス、パチンコしか頭にない連中に、
性病まみれのアホネエちゃん、そしてありあまるほどのキ×ガ×たち…
暴走を越えた暴走を繰り広げる連中は、あくまでも物語世界の創造物。
いま現在に限ってしまえば、こんな恐ろしい状況は単なるコメディに過ぎない。
だが、近い将来こんな状況が訪れない保証はどこにもないはずだ。
そう考えると、メチャクチャなバカ話に笑いながらも、背筋には冷たいものが走る。


都会だって、別に対岸の火事と見逃してはいられない。
本来、多様性を受け入れるだけの土壌があるのが都会のよさだが、
渋谷だの銀座だのにパチンコ屋やユニクロなど、
〝近所にいくらでもある店〟が並んでいるのを見てしまうと、将来の展望は暗くなる。
自分たちが老齢にさしかかる将来、
こんなバカ地獄で苦しむのかも、と、何だかもう、本当にイヤになってしまう。


ちなみに、小説はいつものことながら、
パワー全開、圧倒的なスピードで展開していく一方、全体にはやや破綻気味。
もちろん、整合性だとか、まとまりを期待して読むジャンルの小説じゃないから、
別に気にならないといえば、気にならないのだが、ややもったいない気も…
小さくまとめる必要もないのだが、全体の構成がもうちょいとまとまると、
もっとものすごい大傑作もできるはずなのにな、などと、生意気ながら思ったのだった。


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バカをあやつれ!
戸梶 圭太著
文芸春秋 (2006.10)
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