ジャック・リッチー「10ドルだって大金だ (KAWADE MYSTERY)」
〝優雅な殺人、洒落た犯罪〟
〝<このミステリーがすごい!>第1位に輝いた
短編ミステリの名手ジャック・リッチー登場。〟
「クライム・マシン (晶文社ミステリ)」は、ずっと気にしつつも未読。
しかし、これだけ評判がいいと、やはり捨て置けない。
〝結婚して三か月、そろそろ、妻を殺す頃合いだ。〟
という、絶妙のつかみで始まる「妻を殺さば」から始まる14編。
〝思わずニヤリ〟という表現がこれほどふさわしい短編集もそうはない。
次々と繰り出される、シニカルで軽妙なブラック・ユーモアに没頭してしまう。
ウォルター・マッソー主演で映画化もされたという、「妻を殺さば」がやはりいい。
63年発表のこの作品。現在の基準でいけば、決して斬新なオチとはいえないが、
そのツイストに至るまでの軽妙な語り口は、まさに名人芸の佇まいだ。
〝運の悪いことにゴムひもが切れてしまった〟ドジな強盗の、
逃亡の顛末をオフビートに描いた「世界の片隅で」も味わい深かった。
トホホなニヤリになってしまうあのラストも、よくよく考えると、
いろいろと問題はあるのだが、それはそれで、一番理解できたりもする。
πにまつわるある秘密を描いた「円周率は殺しの番号」も、ブラックでよかった。
軽妙なツイストも小気味よく効いていて、これまた〝思わずニヤリ〟。
ミルウォーキー市警のヘンリー・ターンバックル刑事、
超人探偵カーデュラのシリーズも、もっともっと読み進めたくなる魅力にあふれている。
特にターンバックルの、冴えまくりでズレまくりの推理には、最高だ。
読み終えると、とても贅沢な(ブラックだが…)時間を過ごした気分になる。
巻末の解説も通り一遍の説明に終わらない、興味深い一文。
「10ドルだって大金だ (KAWADE MYSTERY)」もぜひに読まなければならないな、と決意する。
今回は一気読みしてしまったが、
次は一遍一遍噛みしめながら、というのも悪くないかもしれない。