クリストファー・バックリー「ニコチン・ウォーズ (創元推理文庫)」

mike-cat2006-11-03



映画「サンキュー・スモーキング」原作。
〝深刻化するタバコ問題を、絶妙な風刺精神で、
 軽やかに笑い飛ばすタバコ・コメディ小説!〟


ニック・ネイラーは、タバコ業界ロビイストを代表するスポークスマン。
業界のため、あれやこれやの理屈をこね回し、タバコを擁護する毎日だ。
嫌煙団体や、政界からの圧力に論陣を張り、
アルコール業界、銃器製造業の同志と情報を交換し、
映画にたくみに広告を織り込むべく、ハリウッドに打って出る。
だが、憎まれっ子世に憚るを地で行くニック、殺人予告が舞い込んだ−


選択の自由や親子の絆を大きなテーマに、
スピニング(情報操作)やディベートの手法を中心に展開した映画と比べ、
小説はかなり、タバコそのものの抱える問題であったり、
それにまつわる政治的な風刺の要素がかなり強い印象だ。
小説の美味しいところをうまくピックアップした映画も面白かったが、
http://d.hatena.ne.jp/mike-cat/20061018
小説は小説で、なかなかに笑わせてくれる、さらに美味しい作品といえそうだ。


ニックが自虐的に自身を表現すれば、
ジャンボ2機分の人間を毎日殺す大量虐殺者を代弁するヤッピー、ということになる。
そんな一種のダーティ・ヒーローの活躍は、一種のクライム・ノヴェル的な魅力もある。
やってることはとても褒められた真似ではないのに、思わず快哉を叫んでしまう。
そして、いつしかニックに感情移入してしまうのが、何ともおかしい。


個人的には喫煙の習慣はまったくない。
かといって、別に過激な嫌煙家というわけでもない。
たとえば、この本でも取り上げられている、
若年層への〝タバコはかっこいい〟という刷り込みなどに関しては、同意はできないが、
きちんと分煙して、マナーよく吸ってもらえば、
タバコに害があろうとなかろうと、吸う人の自由だと思っている。
もちろん〝自分が末期の肺がんに冒されてとわかると、
 損害賠償をもらって当然と考える、そんな不埒な連中〟は大嫌いだ。
こうして並べていくと、小説全体のトーンとは、かなり近いスタンスに感じる。
だからだろうか、タバコ論争にまつわるあれやこれやが、やたらとツボにはまるのだ。


読み終えて思うのは、
10年前にハードカバーで刊行された当時、なぜ気付かなかった! という悔いだろうか。
こんなに面白い小説を10年も知らずにいた、というのが残念でならない。
もちろん、10年経ってもあまり古びた感じがしないどころか、
タバコ問題後進国たる日本では、
いまになってこの小説の先見性が明解に見えてくる印象もあるのだが…
何にせよ、映画とはまたひと味違う楽しみを感じさせてくれる1冊。
ひたすら読みふけりながら、クスリクスリと忍び笑いを浮かべていたのだった。


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ニコチン・ウォーズ
クリストファー・バックリー著 / 青木 純子訳
東京創元社 (2006.9)
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