荻原浩「噂 (新潮文庫)」

mike-cat2006-10-31



〝都市伝説が渋谷の女子高生たちの間を駆けめぐる。
 背筋が凍る荻原浩流サイコ・サスペンス〟
読もう読もうと思っているうちに、いつの間にか積ん読になっていた。
しかし、読み始めると一気読みは必至の〝さすが荻原浩〟な1冊だ。


警視庁目黒署管内で、足首を切り取られた女子高校生の死体が発見される。
捜査に駆り出されれた目黒署の刑事木暮は、
本庁一課の女性刑事・名島とともに、渋谷の街に広がる、「レインマン」の噂を聞きつける。
若い女の足首を切り取る、その殺人鬼から逃れるには、「ミリエル」の香水が必需品。
広告コンサルタントによる、販売戦略だったはずの「噂」が独り歩きを始めていた−


販売戦略としてのWOM(WORD OF MOUSE=口コミ)の仕掛けが、
いつしか真実になっていく、という都市伝説ホラーの体裁をまとった、サスペンス。
地道な捜査に当たる木暮と名島による、警察小説という要素が加わり、
それが、荻原浩の流麗な語り口によって展開していく、といううれしい作品。


ミステリー的には、ややミスリードが強引な印象もあるが、
全体的な印象としては、なかなか楽しませてくれる仕掛けになっている。
そして、オビにある〝衝撃のラスト一行に瞠目!〟の部分。
実際のところは1行というより、そのへん2ページぐらいでだいぶ見えてくるが、
そのホラー映画も真っ青のオチには、思わずうれしい苦笑いを浮かべてしまう。


オロロ畑でつかまえて (集英社文庫)」「なかよし小鳩組 (集英社文庫)」などと同様、
広告業界出身の経験を生かした描写も、ふんだんに盛り込まれている。
特に、NY帰りの広告コンサルタント、杖村が何とも香ばしい。
いかにも世の中をなめきった〝ギョーカイ〟の人っぽく、こうのたまう。
「いまの若い子って、とっても扱いやすいわ。
 個性的で自己主張が強いなんて言われているけれど、
 結局、その個性も主張もみんな何かの模倣ですもの。
 要するに錯覚を起こさせればいいの。
 自分たちには独自の情報や考え方があるんだっていう錯覚をね」
その末路は読んでの読んでのお楽しみ、といったら不謹慎だが、
末路をたどる前に、バカにしていた女子高生たちにクソミソに貶されているのがおかしい。


作為的に作りあげた都市伝説は、
何とも心地よい、そしてやるせない〝後味の悪さ〟に包まれ、幕を閉じる。
そのヘンな感覚を味わうだけでも、十分に読む価値のある1冊じゃないかと思う。


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噂
posted with 簡単リンクくん at 2006.10.22
荻原 浩著
新潮社 (2006.3)
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