シネリーブル梅田で「アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵」

mike-cat2006-10-30



ミステリーの女王 アガサ・クリスティー没後30周年記念作品。
〝人生には“事件”が必要です。
 優雅な奥さま探偵が活躍する、のどかな田園ミステリー!〟
エルキュール・ポアロミス・マープルと次ぐ人気シリーズ、
〝おしどり探偵トミー&タペンス〟が活躍した、「親指のうずき (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)」を、
舞台をフランスに、主人公を優雅な熟年夫婦に代え、映画化した作品だ。


主人公の好奇心旺盛な奥さま、プリュダンスを演じるのは、
「女はみんな生きている」「家族の気分」のカトリーヌ・フロ、
そんなプリュダンスに喜々として振り回される夫、ベリゼールには、
アメリ」のナレーションや、「ピエロの赤い鼻」のアンドレ・デュソリエ
監督は「夫たち、妻たち、恋人たち」のパスカル・トマが務めた。


スイス国境に面したフランス・サヴォワ地方の保養地、エクス・レ・バン。
プリュダンスとベリゼールのベレスフォルド夫妻は、
ブルジェ湖畔のお屋敷で優雅に暮らす、裕福な熟年カップル。
クラシックのオープンカーに乗り込み、
超高級老人施設へベリゼールの叔母を訪ねたふたりは、
わがままな老人集団の中でひときわ目立つ、奇妙な言葉を口走る老女に出会う。
数週間後、叔母が亡くなったとの報せを受けた夫妻は、
再び訪れた老人施設で、数々の不穏な噂を聞きつける。
謎めいた出来事に〝親指のうずき〟を感じるプリュダンス。
それは邪悪なものが近づく、事件の予感でもあった−


リゾート地に立つお屋敷での優雅な暮らしぶりに、
かすかな毒を含んだユルめのユーモア、そして奇っ怪な事件…
いかにもクリスティの世界を思わせる作品である。
何も新しいものはないが、誰でも安心して観られるタイプの映画、
といってしまうと、かなり貶しているように聞こえるが、それもまた悪くない。


美しい湖畔の屋敷から、のどかな田園までという、
フランスの風景だけでも、ちょっとした紀行番組的な楽しさもあるし、
数々のクラシック・カーや美術品、そしてプリュダンスのファッションなど、
いかにもセレブな暮らしぶりには、嫉妬半分でうっとりとしてしまう。
そこかしこで吐かれる毒のあるセリフも、
年齢層の高い観客にはかなりツボに入るであろうことがわかるし、なかなか悪くない。


しかし、事件が何ともユルいのが惜しまれる。
原作を読んでいいない以上、ダメの烙印をあまり押したくないが、
映画の中で示される謎解きは、正直チャカチャカしていて、ピンと来ない。
ストーリー展開も、もう少し切れよく進行すれば、退屈しないのに…と感じてしまう。
率直にいって、「火曜サスペンス劇場」のスペシャル版の域を越えないのだ。
それはそれで、根強いファンのいるジャンルだし、
それをもって悪いとはいわないのだが、映画としては物足りない気もしてしまうのだ。


映画全体の雰囲気がいいだけに、この物足りなさは何とももったいない。
年配層の評価はもしかするとちょっと違うのかもしれないが、
もう少し気を配って仕上げていれば、
ゴスフォード・パーク」のような傑作にもなり得たんじゃないだろうか。
まあ、(邦題とはいえ)「奥さまは名探偵」的なユルいタイトルを関した映画には、
こうした期待も過剰かもしれないな、とは正直思う部分もあるのだが…