ジェイムズ・サリス「ドライブ (ハヤカワ・ミステリ文庫)」

mike-cat2006-10-28



〝車だけがおれの友だった。〟
〝天才ドライバーの犯罪の日々を綴ったカー・クライム・ノヴェル〟
腕利きのスタント・ドライバーにして、
そのスジのプロでもある〝ドライバー〟の物語だ。


映画のスタントで名声を博していたドライバー。
その腕利きぶりは、強盗の逃亡にも生かされ、気付けばその道の専門家に。
よくある仲間割れの挙げ句、流血の事態に陥ったドライバーは、
その裏にある陰謀に迫るべく、ステアリングを握る。
回想を織り交ぜながら展開する、ノンストップ・アクションの行方は−


物語の始まりはフェニックス郊外の<モーテル6>。
〝壁にもたれて座ったドライバーは、
 じわじわ迫ってくる時だまりを見つめてこう考える。
 おれは何かとんでもないミスを犯したのだろうか。〟
うなりを上げるショットガン、鋭く光る剃刀、そして奔流のようにわき出す血…
ここから物語はめまぐるしく、ドライバーの過去と現在を行き来する。


ドライバーの回想は、はるかな過去まで遡る。
熾烈な経験を余儀なくされた10代、駆け出しのスタント・ドライバー時代、
そして、犯罪に手を染め始めた、ちょっとしたきっかけ−。
運命の濁流に翻弄されていくドライバーが、ある場面を振り返り、こうつぶやく。
〝いまならわかる−それは自分が注意を払うべき何かだったのだ。
 人生はたえずわれわれにメッセージを送ってくる。
 それからのんびりと腰をおろし、それを解読できないわれわれを見て嗤うのだ。〟
タフな人生を送る男の言葉は、シニカルで、苦い味わいに満ちている。


185ページという短さと、濃厚な物語に、
そして訳者あとがきにもあるように、徹底して無駄を省いた文体のミニマリズム
最初はとっつきにくいが、一度火がつけば、
あとは最後まで抜群の疾走感を保ったまま、一気に進んでいく。
そして、ドライバーは、独特の余韻を残し、文字通り走り去っていく。
〝おれは運転する。それがおれのやることだ。やってきたことだ。〟
ううん、シブい、と思わずうなってしまうような言葉を残して。


リュック・ベッソン製作の「トランスポーター」とはまた違う、〝プロ〟の物語。
カー・アクションの連続と、その美学に酔えること請け合いだ。
こちらもぜひぜひ映画化を希望したいな、と思ってしまったのだった。


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ドライブ
ドライブ
posted with 簡単リンクくん at 2006.10.23
ジェイムズ・サリス著 / 鈴木 恵訳
早川書房 (2006.9)
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