ジェイムズ・エルロイ「獣どもの街 (文春文庫)」

mike-cat2006-10-13



映画「ブラック・ダリア」公開まであとわずか!
アメリカン・デス・トリップ(上)」「アメリカン・デス・トリップ(下)」以来(たぶん)
実に5年ぶりとなる、エルロイの最新刊となる。
ノワールの帝王エルロイが20年ぶりに現代を描いた最新小説集〟


ハリウッド署殺人課のリック・ジェンソン刑事を主人公とした、
殺人と、女優ドナ・W・ドナヒューとの恋にまつわる連作は、
あの歴史的な大傑作「ブラック・ダリア (文春文庫)」同様、
実際に起こった事件を織り交ぜながら、えげつなく熱い街LAを描く。
各エピソードのタイトルは「ハリウッドのファック小屋」「押し込み強姦魔」
そして「ジャングルタウンのジハード」と、これまた強烈。
いかにもエルロイらしい、独特の風合いに満ちた作品ばかりだ。


時代は現代。舞台はもちろんハリウッド。
〝華やかで、破廉恥で、恥知らずな犯罪都市。〟
だが、それは褒め言葉だ。主人公リックの独白はこう続く。
〝ほかで働く理由がどこにある。〟


「ハリウッドの〜」は、タイトルの通り、
警官専用のファック小屋の調達を命じられた新人刑事、リックが、
ホモセクシュアルたちの異常殺人事件を通じ、運命の女ドナ・ドナヒューと出会う物語。
「押し込み強姦魔」では、
あの〝暗黒のLA4部作〟でお馴染みのゴシップ誌、〝ハッシュハッシュ〟の
スキャンダル王ダニー・ゲッチェルの死にざわめくLAに、麻酔銃を使った強盗が現れる。
未解決のある事件と、ドナに魅せられたリックの狂いっぷりが何ともいえない。
「ジャングルタウン〜」では9・11以後の、刑事にとって難しい時代が描かれる。
そして事件は、アラブ人の連続強盗と、ドナの愛人への横恋慕だ。


そんな徹底的なリアリズムと、残虐性に満ちた内容に圧倒されるだけでなく、
また、押し寄せるような言葉の波にも、圧倒されていく。
ホワイト・ジャズ (文春文庫)」を読んだことのある読者なら、もうお馴染みだが、
その文体は、かなりエッジの効いた、これまた独特のそれ、である。
〝ドナは微笑んだ−かろうじて/かすかに/かたちだけ〟
〝ここで汗をたらすな/よろめくな/気絶するな。〟
〝KYゼリー/一本/半分使用ずみ。
 オカマ本−<ナニをぶちこめ>、<ポコチン>、<巨根が気になる貴兄へ>。〟
とんでもない言葉の数々が、/(スラッシュ)で区切られ、文章が展開していく。
そして、その言葉は時に、まるでラップを思わせるかのように韻を踏む。
(もちろん、翻訳者の苦労はひしひしと伝わってくるが…)
それはもう、最高の音楽を全身で受け止めているような衝撃といっていい。


ブラック・ダリア (文春文庫)」や「LAコンフィデンシャル〈上〉 (文春文庫)」「LAコンフィデンシャル〈下〉 (文春文庫)」には、
ちょっと及ばないかもしれないが、十分すぎるほどエルロイの世界が展開される。
とにかく、どぎつくって、えげつなくって、そしてパワフルな1冊。
さすが…、としかいいようのないパンチ力に、打ちのめされるのだった。


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獣どもの街
獣どもの街
posted with 簡単リンクくん at 2006.10.12
ジェイムズ・エルロイ著 / 田村 義進訳
文芸春秋 (2006.10)
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