ジェイムズ・エルロイ「獣どもの街 (文春文庫)」
映画「ブラック・ダリア」公開まであとわずか!
「アメリカン・デス・トリップ(上)」「アメリカン・デス・トリップ(下)」以来(たぶん)
実に5年ぶりとなる、エルロイの最新刊となる。
〝ノワールの帝王エルロイが20年ぶりに現代を描いた最新小説集〟
ハリウッド署殺人課のリック・ジェンソン刑事を主人公とした、
殺人と、女優ドナ・W・ドナヒューとの恋にまつわる連作は、
あの歴史的な大傑作「ブラック・ダリア (文春文庫)」同様、
実際に起こった事件を織り交ぜながら、えげつなく熱い街LAを描く。
各エピソードのタイトルは「ハリウッドのファック小屋」「押し込み強姦魔」
そして「ジャングルタウンのジハード」と、これまた強烈。
いかにもエルロイらしい、独特の風合いに満ちた作品ばかりだ。
時代は現代。舞台はもちろんハリウッド。
〝華やかで、破廉恥で、恥知らずな犯罪都市。〟
だが、それは褒め言葉だ。主人公リックの独白はこう続く。
〝ほかで働く理由がどこにある。〟
「ハリウッドの〜」は、タイトルの通り、
警官専用のファック小屋の調達を命じられた新人刑事、リックが、
ホモセクシュアルたちの異常殺人事件を通じ、運命の女ドナ・ドナヒューと出会う物語。
「押し込み強姦魔」では、
あの〝暗黒のLA4部作〟でお馴染みのゴシップ誌、〝ハッシュハッシュ〟の
スキャンダル王ダニー・ゲッチェルの死にざわめくLAに、麻酔銃を使った強盗が現れる。
未解決のある事件と、ドナに魅せられたリックの狂いっぷりが何ともいえない。
「ジャングルタウン〜」では9・11以後の、刑事にとって難しい時代が描かれる。
そして事件は、アラブ人の連続強盗と、ドナの愛人への横恋慕だ。
そんな徹底的なリアリズムと、残虐性に満ちた内容に圧倒されるだけでなく、
また、押し寄せるような言葉の波にも、圧倒されていく。
「ホワイト・ジャズ (文春文庫)」を読んだことのある読者なら、もうお馴染みだが、
その文体は、かなりエッジの効いた、これまた独特のそれ、である。
〝ドナは微笑んだ−かろうじて/かすかに/かたちだけ〟
〝ここで汗をたらすな/よろめくな/気絶するな。〟
〝KYゼリー/一本/半分使用ずみ。
オカマ本−<ナニをぶちこめ>、<ポコチン>、<巨根が気になる貴兄へ>。〟
とんでもない言葉の数々が、/(スラッシュ)で区切られ、文章が展開していく。
そして、その言葉は時に、まるでラップを思わせるかのように韻を踏む。
(もちろん、翻訳者の苦労はひしひしと伝わってくるが…)
それはもう、最高の音楽を全身で受け止めているような衝撃といっていい。
「ブラック・ダリア (文春文庫)」や「LAコンフィデンシャル〈上〉 (文春文庫)」「LAコンフィデンシャル〈下〉 (文春文庫)」には、
ちょっと及ばないかもしれないが、十分すぎるほどエルロイの世界が展開される。
とにかく、どぎつくって、えげつなくって、そしてパワフルな1冊。
さすが…、としかいいようのないパンチ力に、打ちのめされるのだった。