パトリック・マシアス「オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史」

mike-cat2006-10-11



アメリカは萌えているか?!〟
町山智浩編・訳による「映画秘宝
フィギュア王」の連載に加筆した、
アメリカにおける日本アニメ&マンガ・オタク事情をまとめた1冊。
アメリカン・オタクの世界にようこそ
 全米で爆発する日本製オタク・カルチャー、
 その知られざる裏事情を奥の奥まで大公開。〟
かつては日陰の存在だったオタクが、
アキバ系としてすっかり市民権を得た現在、
オタクはついにアメリカでもメジャーな存在になりつつある、
という衝撃?のリポート。


とにかく濃ゆ〜い1冊の内容は、オビにも羅列されている。
セーラームーン」に女性蔑視バッシング!
「ヤマト」の大和魂が骨抜きに!
ウルトラセブン」は吹替でコメディに改悪!
キカイダー」がハワイで大人気!
アメリカではガンダムといえばW(ウイング)!
飯島真理は今もカルチャー・ショック!
YAOIはすでに英語!
大学のホールに8mのゴジラが屹立!
ダーティペア」が独自異常進化!
コスプレ写真に萌えるオタク専門出会い系!


読んでいるだけでその濃厚さにクラクラする、そんな1冊をしたためたのは、
カリフォルニア州サクラメントの郊外で生まれ育った、
中流家庭のメキシコ系の血を引く白人、というパトリック・マシアス
6歳の時、深作欣二の「宇宙からのメッセージ」(トンデモ作らしい)を観て、
日本文化に目覚めたという、ちょっと変わった経歴を持つアメリカ人だ。


序盤で著者は、誇らしげにこうつぶやく。
〝僕は今、中野ブロードウェイのカフェで往年の怪獣マニア雑誌
 「フェイマスモンスターズ・オブ・フィルムランド」の表紙がプリントされたTシャツを着て
 この原稿を書いている。まるで夢みたいだ。
 僕は退屈なアメリカから逃げ出して、
 小さい頃からずっと憧れてきた日本に住んでいるんだ。〟
〝退屈な〟アメリカ、というのが、何とも日本人には意外に映るところだが、
実際のところ、一部大都市をのぞく一般的なアメリカなんて、そんなものだ。
そして、そのピューリタン的な価値観からの脱出口が、日本アニメだった。
〝ジョックスとチアリーダーの支配、厳しいセックスのモラル、教条主義的な善悪二元論
 そんな抑圧的な価値観から解放された自由な考え方をアニメやマンガは教えてくれた。〟
そんな想いを込めて、著者は熱く、熱く、日本アニメを語っていく。


第1章では「吹き荒れるオタク旋風」では、
パフィーやコスプレ、ドラゴンボール・ファッションや、ゴジラといった、
アニメや日本の特撮などを中心としたカルチャーの、繁栄ぶりに驚かされる。


そして、第2章「USAオタクの少年期」では、
著者自身の少年時代を振り返りながら、
これまで日本アニメやマンガ、特撮のアメリカにおける歴史をたどる。
ウルトラマン」がまずまずの好評を博したにも関わらず、
あのシリーズ最高傑作「ウルトラセブン」は日曜5時半の放映され、
それも、あまりに寒いギャグに満ちたトンデモ作品にされてしまった経緯や、
史上最悪のテレビ番組の35位にもランクされた、
ピンク・レディー・ショー」がアメリカの少年に与えたいけないトラウマの話、
グレートマジンガー勇者ライディーンガイキングが一緒くたにされ、
「ショーグン・ウォリアーズ」の〝超合金〟(懐かしい!)として輸入された話など、
とにかく読んでいるだけで、トホホとなるようなエピソードが紹介される


第3章「Animeは英語になった」では、
マクロスガンダムにまつわるエピソードを紹介。
最近、日本でもティーザー予告が始まったが、2007年マイケル・ベイ監督で映画化される、
タカラの「トランスフォーマー」の話なんかも興味深い。


第4章「アメリマンガの世界」は
アメリカでの日本製マンガ市場に参入した、アメリカ人の話など。
あの「子連れ狼」の小池一夫に影響されたフランク・ミラーが、
日本の劇画の手法を使って、「デアデビル」「バットマン」、
そして「シン・シティ」などを手がけてきたエピソードが面白い。


そして最終章の「USAオタク列伝」では、
何人かの特徴的なアメリカン・オタクを紹介するとともに、
出会い系サイト「オタク・ブーティ」などを取り上げ、
アメリカにおけるオタクの行動形態などが、くわしく説明される。
いかにも著者がオタクらしいな、とちょっと笑ってしまうのは、この部分。
アメリカのオタクはまだまだ
 現実の恋愛を完璧に捨てられるほどオタクとして進化していないんだ。
 二次元のアニメ・キャラよりは、やっぱり血肉の通った本物の異性のほうがいい。
 つまり、まだまだ「電車男」の段階で、「電波男」の域までは達していないんだ。〟
それって〝進化〟といっていいのかどうか…


日本の一般的なメディアではなかなか触れることのできない、
本当のアメリカの姿のひとつが、かいま見えるような楽しさとともに、
少年時代に親しんだ、ウルトラマンライディーンキカイダーという名前も懐かしい。
軽妙な感じでさらさらと読ませるのも好感が持てる1冊といえそうだ。


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オタク・イン・USA
パトリック・マシアス著 / 町山 智浩編・訳
太田出版 (2006.9)
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