海堂尊「ナイチンゲールの沈黙」

mike-cat2006-10-10



〝第4回「このミス」大賞受賞作&25万部突破のベストセラー
 「チーム・バチスタの栄光」に続く
 メディカル・エンターテインメント第2弾〟
〝バチスタ・スキャンダルから9ヶ月−
 “愚痴外来”田口と“ロジカル・モンスター”白鳥コンビが帰ってきた!〟
というわけで、「えっ、もう!」というぐらい早くも、あの傑作の続編登場だ。
今回の東城大学付属病院に舞い降りた2人のディーヴァ(歌姫)を中心に、
さらにパワーアップしたキャラクター満載で物語は展開していく。


あのバチスタ・スキャンダルから、平静を取り戻しつつある東城大学付属病院に、
〝白銀の迦陵頻伽〟の異名を持つ人気歌手、水落冴子が入院した。
ひょんなきっかけから救急車に同乗したのは、病棟のナイチンゲール、浜田小夜。
担当医はなぜか、精神内科学教室の窓際講師、田口公平に。
不定愁訴外来、通称〝愚痴外来〟にも、また新たな問題が持ち上がる中、
病院全体を揺るがす、とんでもない事件が起こった。
厚生労働省の鬼っ子、白鳥を始めとする、とんでもない連中が次々と登場する中、
ナイチンゲールの歌声が、ある奇跡を起こす。


率直にいうと、ストーリーはかなり散漫、ミステリとしては破綻している小説だと思う。
ひとつひとつのエピソードは面白いけど、どこか統一感というか、つながりに書けるし、
そのオチたるや、厳格なミステリ・ファンが読んだら、「失格」の烙印が押されるはずだ。
正直、そういうのに疎い僕ですら「それはないだろ…」と笑ってしまった。


だが、そんな致命的な欠陥を抱えつつも、この本は間違いなく面白い。
それが、あくまでも第1作ありきの番外編的な魅力であっても、面白さは保証付きだ。
もちろん、その魅力の源泉は、続々登場する、濃ゆいキャラクターたちだろう。
主人公がかすんでしまうような、という表現がまさにしっくりくるほど、
とんでもない人たちが、これでもか、というぐらいにたっぷりと登場する。


前回もおいしいところをさらっていった、厚生労働省の高級官僚にして、同省の鬼っ子、
〝ロジカル・モンスター〟白鳥はもちろん、今回も登場するし、
それどころか、その天敵として「警・察・庁」の〝デジタル・ハウンドドッグ〟も現れる。
東城大学医学部開闢以来の横着者にして千里眼を持つという〝眠り猫〟など、
くせ者たちの奇行をだけでも、十分に楽しめるエンタテインメントとなっている。


もちろん、前作同様、医療現場の抱える問題、そして矛盾も散りばめられている。
〝大学病院は崩壊寸前だ…いや、すでに崩壊しているのかもしれない〟
 研修医不足で疲弊し、システムが機能しなくなった。〟
という一文で紹介される、大学病院の危機だけでなく、
医療行政による軽視が招いた〝カネにならない小児科〟減少の危機など、
深刻な問題提起は、この小説のもうひとつのテーマでもある。


おそらく、さらにシリーズ化もされていくのだろうな、という勢いを感じる作品ではある。
ただ、第3作ではもう一度、核となるミステリの魅力や、
それぞれのエピソードと全体のストーリーの統一性をもっと練って出して欲しいな、という感じ。
この〝番外編〟的な小説を、もう1冊というのは、少々きついかもしれない。
一気読みするほど楽しんでおきながら、そんなことも思ったのだった。


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ナイチンゲールの沈黙
海堂 尊著
宝島社 (2006.10)
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