ロバート・ライス「ルシタニアの夜上 (創元推理文庫)」「ルシタニアの夜下 (創元推理文庫)」

mike-cat2006-10-07



〝90年前の手紙は何を告げるか?〟
〝リアルな捜査と歴史上の謎解きの融合。
 ミステリの王道を行く注目の傑作!〟
新刊案内で気になった、歴史×警察ミステリー。
そういえば、ジェフリー・ディーヴァーの「12番目のカード」も、
本来の捜査に、歴史ミステリーの要素を加えていたが、
こちらは郵政捜査官という耳慣れない職業の捜査が特徴的だ。


殺風景な平原に囲まれた、モンタナ州の田舎町ノリスで、
ある日、郵便局長と客が何者かの手によって、殺された。
事件を手がけるのは、ある事情で刑事の職を辞し、
地元で郵政捜査官として働くルーミスと、
シアトルから派遣された、こちらも事情ありの元NFL選手の捜査官ドンブロウスキ。
カギを握るのは、はるか90年前に配達されなかった、ある手紙だった。
歴史の流れを変えた大事件にまつわるその手紙をめぐり、さらなる死者まで出るが−


郵政捜査官という職業は、正直初めて聞いたのだが、
郵便物を守るだけでなく、職務遂行中の郵便職員の身を守るという仕事らしい。
郵便局で起きた殺人事件ということで、
地元の保安官などとも協力しあうというのが建前とのことだが、そこはそれお役人。
世界の共通言語〝縄張り争い〟で、案の定、保安官などとゴタゴタする。
さらに、FBIなどほかの連邦捜査官などと比べると、段違いに地位は低いようで、
トンビに油揚げ、みたいなケースも覆おうに往々にしてあるようで、ちょいと切ない。
とはいえ、その捜査のディテイルは興味深く、知らない世界をのぞきみる楽しさもある。


主人公の2人のキャラクター造型も、なかなかいい。
ルーミスはある事件を機に、警官の職を辞し、郵政捜査官となった。
事件の影響で、同じく警官だった父とも疎遠になってしまうなど、苦しい状況にある。
一方のドンブロウスキは内務監察官でもある上司にある弱みを握られ、
それも原因でワシントンDCからシアトルに転勤、家庭も重大な危機に瀕している。
そんな、2人に加え、90年前の謎を握る、シャープレス・ウォーカーも、
様々な事情を抱え、一次対戦のさなか、謎のリンチ死を遂げた人間だったりする。
それぞれが重い荷を背負って生きている、登場人物たちが、
どうその人生を受け容れ、生きていくか、という部分も読ませる小説に仕上がっている。


ストーリー展開的には、謎の中身は前半でだいぶ見えてくる割に、
中盤以降は遅々として謎解きが進んでいかないため、じれったい印象も受ける。
その分、リアルという言い方もできるのだろうが、
小説の醍醐味的に、すこし微妙な面があるかもしれない。
それでも、先に挙げた設定の面白さ、登場人物の魅力でかなり読ませる1冊。
新人作家というライスの今後にも期待のかかる、うれしい作品だったと思う。


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ルシタニアの夜 上
ロバート・ライス著 / 高沢 真弓訳
東京創元社 (2006.9)
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ルシタニアの夜 下
ロバート・ライス著 / 高沢 真弓訳
東京創元社 (2006.9)
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