ジェフリー・ディーヴァー「12番目のカード」

mike-cat2006-10-01



待望のリンカーン・ライム・シリーズ最新刊!!
〝大胆なツイスト、息詰まるサスペンス、驚愕のエンディング〟
〝ありふれた強姦未遂事件はほんのはじまりだった。
 そのかげにはアメリカの歴史を揺るがす大スキャンダルが潜んでいた〟
ナチス政権下のドイツを描いた前作「獣たちの庭園 (文春文庫)」に続き、
歴史ものの要素をミックスさせた、極上のエンタテインメントが繰り広げられる。


マンハッタンの55丁目、アフリカン・アメリカン文化歴史博物館の、
人けのない図書室で起こった、不可思議な強姦未遂事件。
被害者の16歳、ジェニーヴァが調べていたのは南北戦争の時代の、
あるひとりの黒人運動家のたどった、数奇な運命だった。
その陰にうごめくのは、アメリカの根幹を揺るがすとんでもない秘密。
そして、少女に次々と襲いかかる黒い影−。
140年前の証拠物件をめぐり、リンカーン・ライムの推理がまたも冴えわたる。


タイトルの「12番目のカード」は、タロットの〝吊され人〟。
精神的な探求を経ての決断、変化、方向変換を示し、
道理に矛盾しているように思えても、自己の内なる声に耳を傾けることを促す。
そして、巻頭には初代スーパーマンクリストファー・リーヴに捧げる言葉。
〝勇気の手本であり、希望の象徴でもあるクリストファー・リーヴに捧ぐ〟
乗馬中の事故で重篤な障害を背負いながら、
たゆまぬ肉体鍛錬と強い意志で医学界の常識を覆す回復を遂げた、
クリストファー・リーヴになぞらえ、かつては自殺願望に悩まされていたライムが、
人生への新しい進路を切り開いていけるのか、奇しくもそのタロットが示してくれる。


ドラマはもちろん、それだけではない。
一連の事件は、ハーレムの高校生、ジェニーヴァの抱える苦悩や葛藤、
そして研究テーマとしている過去の事件と絡み合い、多層的に、ダイナミックに展開していく。
銃とドラッグとレイプにまみれたハーレムへの嫌悪感や、
その象徴としてのAAVE(アフリカン・アメリカン日常英語)の用法などもテーマとなり、
なかなか触れることのない、NYのもうひとつの側面をのぞき込むこととなる。


一方では、〝吊され人〟を現場に残した犯人、
〝未詳一〇九号〟の抱える苦悩も、物語の一側面として、ドラマに深みをもたらす。
冷酷無比な犯人の本当の目的、そして苦しみは、
ゾッとする恐怖とともに、一種の哀しみにも似た余韻を残す。


そして、ディーヴァー作品でお馴染みの面々も物語に彩りを加えてくれる。
シリーズの常連メンバー、ロン・セリットー刑事がある事件の後遺症に悩まされたり、
あの作品のあの人や、前作のあんな人も登場するという、これまた豪華なラインナップだ。
(悩まされているのに、豪華とかいうのも、かなり不謹慎ではあるのだが…)


もちろん、ディーヴァーといえば、のTwist(ひねり)はもちろんたっぷり楽しめる。
大小取り混ぜたどんでん返しの連続にうなりつつ、
歴史ミステリーの趣すら漂う140年前の謎にも、思わずうならされるという1冊。
ただただ、さすが! と感心しつつ、ページをめくり続けたくなる傑作である。
アメリカではすでに刊行されている、という次作〝The Cold Moon: Lincoln Rhyme Book 7〟も、
ひたすら楽しみ!! という興奮を胸に、本を閉じたのだった。


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12番目のカード
ジェフリー・ディーヴァー著 / 池田 真紀子訳
文芸春秋 (2006.9)
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