田口久美子「書店繁盛記」

mike-cat2006-09-14



〝本屋さんの棚には、私たちの未来がつまっている〟
〝若い書店員の奮闘から、本と出版の未来を考える〟
ポプラ社のWebマガジン「ポプラビーチ」の連載「書店日記」をまとめたもの。


80年代、書店界の寵児として、
トットちゃん積み〟とも言われた集中的な平積み展開などの個性的な棚作りや、
バーゲンブックフェアなど、さまざまな試みで新しい書店の形を提案した、
池袋「リブロ」の隆盛を描いた「書店風雲録」の著者による、
本と出版と書店にまつわるコラム集だ。
タイトルには「繁盛記」とあるのだが、
どちらかというと「書店員の憂鬱」という方がしっくりくるような印象だろうか。


オビにある、目次からの抜粋はこんな感じだ。

  • アマゾンで買えない本がある?
  • パソコン検索の落とし穴
  • ネット書店とリアル書店
  • アメリカが再販制を止めさせたい理由
  • コンピュータの功罪
  • 本棚から見る、翻訳事情
  • 芥川賞直木賞
  • 書店の「国際問題」
  • 多刷本を探してみると
  • 今の時代の販促法
  • アメリカの「総合書店」
  • 若い書店員へ


コンピュータ導入による書店の仕事の大きな変化をまとめたり、
青山ブックセンター(ABC)の閉店をめぐる顛末を振り返ったり、
オンライン書店の発達で小書店がどんどん潰れていく現状や、
一大勢力となったアマゾンのよる理由不明確な販売拒否を取り上げたり、
セブン―イレブン、TSUTAYA、ブックオフなど郊外型書店の成長がもたらす弊害や
書店業界の泣きどころであった客注システムと、そこに取り入ったアマゾンの功罪、
無責任な思いつきで、無闇に大きな判型で本を出す出版社への苦言
(これは映画パンフレットも同じ。遊びこころと、無責任の区別をつけてほしい)
などなど、読書と本屋通いを日常の楽しみとしている人にはたまらない一冊だ。


とはいえ、ここに挙げた例を見れば一目瞭然なのだが、
この出版界、書店界において、明るいニュースは少ないのが現状だ。
本の後半で、著者から嘆きの言葉が飛び出す。
〝この連載だって「書店とはどのような場なのか、
 そしてその書店と書店を巡る状況はどのように変化していっているか」
 を書いているつもりなのに、
 「どのように悪くなっているか」の方向によじれていているような気がする。〟


現在の書店員ブームにも、書店員の立場から、ひとこともの申している。
POPのブームや本屋大賞などで、
〝書店員の意見が傾聴される〟ことに対し、いいこととしながらも、
結局はすでに大部数が売れているベストセラーの販促に終わっている事情や、
少部数のいい本が取り上げられることなく埋もれていく現状を見るにつけ
「これが本当に〈本〉にとっていいことなのだろうか」と、疑問も投げかけている。


本を読んでいて感じるのは、やはり書店を取り巻く状況の難しさだ。
僕自身、オンライン書店はもちろん活用しているのだが、
基本は書店で(それもTSUTAYAとかではなく、ジュンク堂や、
かつてのリブロのような、本好きのための書店で)買うスタンスは崩したくない。
ジュンク堂方式の「できるだけ揃えました。選ぶのは〈あなた・読者〉です。
 検索システムが選ぶお手伝いをします」も好きだし、
リブロのような「時代や思想をキーにして本を選び、棚を作りました。
 選んだのは〈私・書店〉です。このコンセプトに共感したら買ってください」
 という書店もあって欲しいというのが切実な願いだ。
そして、書店での注文(客注)の代わりに、オンライン書店を使いたいな、と思う。


この本を読んでいると、日本の書店や出版事情が、
〝ベストセラーしか読まない人の文化〟に呑み込まれつつあるのが、ひしひしと伝わる。
僕自身は、CD買うのも、可能な限りTSUTAYAとかでは買わないようにしている。
多様性を認めない、マス文化至上主義の手先みたいなところでは、文化は買えない。
だけど、(別にスノッブを気取るわけじゃないが)状況は悪化してるのだな、と愕然とする。


まあ、そういう暗い話以外にも、興味深い話は盛りだくさんだ。
本好き、書店好きなら、一度手に取ってみることをお勧めしたい。


で、以下は余談。
書店事情なんかからはちょっと離れるが、
実は日本の近い将来を予言するサイトがある、というネタも紹介される。
何かと言えば、アメリカ大使館のサイト。
アメリカが毎年日本に対して突き出してくる「改革要望書」なるものが、
そのまんま数年以内の日本の変化を「予言」しているのだそうだ。
つくづく「属国」ぶりではあるのだが、
こんなことなら60年前、ただの植民地として英語民族化してくれればよかったのに…
といまさらながら思ってみたりもする。
ちなみにことしのは
http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20051207-77.html
郵政民営化法案成立に伴って、米国企業に不利益が生じないこと、
と「医薬品部門における価格設定の革新化」なんかが掲げられている。
ジェネリック医薬品のこととかだろうか… などと想像してみるのも面白い。


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書店繁盛記
書店繁盛記
posted with 簡単リンクくん at 2006. 9.12
田口 久美子著
ポプラ社 (2006.9)
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