ランディ・カッシンガム「訴えてやる!大賞―本当にあった仰天裁判73 (ハヤカワ文庫NF)」

mike-cat2006-09-05



〝それはあなたが悪いのでは?〟
訴訟社会アメリカで、本当にあった信じられない訴訟の数々…
〝一獲千金を狙って今日も誰かが誰かを訴える!
〝弁護士の入れ知恵で大金をせしめるべく起こされたおバカな訴訟を表彰します〟


原題は〝THE TRUE SETLLA AWARDS〟「ほんとうのステラ賞」だ。
名前の由来は、あの有名な訴訟が由来だ。
マクドナルドのコーヒーをこぼし、ひざに大やけどを負ったとして、
290万ドルの賠償金を手にした、というステラ・リーベック。
車の座席で、カップをひざに挟みながらふたを開けた際にコーヒーをこぼした、
という彼女は何と〝火傷をするような温度でコーヒーを供した〟
(85度…これ以上ぬるいコーヒーなんて…)マクドナルドが悪いと主張した。
どこをとっても悪いのはステラなのに何と、
アメリカの裁判制度はマクドナルドに懲罰を与えた。


この事件をきっかけに「その年の最も馬鹿げた訴訟」に与えられる「ステラ賞」が、
ネット上で広がり、都市伝説ともいえる「ありそうな話」が氾濫した。
で、この著者は、実際に起こった事件だけをもとに、
「ほんとうの」ステラ賞として、さまざまなおバカ訴訟をリサーチし、まとめた、という次第だ。


アメリカで02年、訴訟に支払われた額は実に2500億ドル、
国内総生産(GDP)の実に2・33%が民事訴訟に費やされたという計算だ。
そんな訴訟大国(天国?)で起こった訴訟は、
ステラの訴訟と同じくらい、あまりに信じがたいものばかりだ。

  • パーティーでビールを飲んで自動車で帰宅し、

 スピード違反(145キロ!)をしたあげく、信号にぶつかって死んだ未成年の事件で、
 その少年の母親が、少年を止めなかったガールフレンドにビール会社、
 パーティー主催者、その会場を貸した人間まで次々と訴えた、というあきれた顛末。

  • 緊急手術を受けた母親が、廊下を搬送されていくのを見せられ、

 精神的苦痛を受けた、として担当医を訴えた、三人の娘姉妹。

  • スタンガンとピストルを間違え、容疑者を殺してしまった警官が、

 ピストルと区別がつかないようなスタンガンを作ったメーカーを訴えた。

  • 違法な株取引で告訴された高校生が、野球部を追い出されたことにより、

 野球選手としてのキャリアを歩む可能性を奪われたとして、
 学校を相手取って5000万ドルを要求した、というコール・バルティロモ訴訟。

  • 車の中で遊んでいた花火が次々と引火し、火傷で死亡した事故で、

 レンタカー会社までが訴えられ、損害賠償の20%の負担を強いられた。


どれも本当にバカバカしく、くだらないの主張ばかりだが、
これがまかり通ってしまうケースが、意外と少なくないのが、一番怖いところだ。
そして、その弊害は見えないところで、訴訟に関わらなかった人々にも影響を及ぼす。
医療過誤訴訟を避けるための防衛医療が、医療費を膨大にさせてしまったり、
出てもいない副作用を訴えた薬事訴訟が原因で、地域に医者が不足する事態に陥ったり、
言いがかりをつけられ、敗訴した企業の製品に、その賠償金のコストが加算されたり…
一方で、大企業が金に物を言わせた訴訟で、
一般市民の批判を封じ込めるSLAPPが横行してみたりと、問題は大きくなるばかり。
そんな、笑い話だけではすまされない考察もまた、この本の面白い部分ではある。


マクドナルドを食べて肥満になったという訴訟や、
アスベストによる健康被害などに関する意見など、
全般にやや一方的な印象を受ける意見も少なくないが、
そこらへんは読み流してしまえば、楽しめて考えさせられる、なかなかの佳作といえそうだ。


で、この本を読んで思ったこと。
訴訟や権利の濫用について、きちんと考え直すべき、
というのが、この本の趣旨なのはもちろん承知の上なんだが、
「とりあえず何でも訴えてみるもんだ」という方がちょっと強いかも…
それは、何か得をするため、というだけでなく、身を守るためにも、だ。
海の向こうの出来事と、笑っているばかりで済む時代は過ぎ去りつつあるのだから…


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訴えてやる!大賞
ランディ・カッシンガム著 / 鬼沢 忍訳
早川書房 (2006.7)
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