アダム・ファウアー「数学的にありえない〈上〉」「数学的にありえない〈下〉」

mike-cat2006-08-29



〝超絶ノンストップ・サスペンスの傑作!!
 世界16カ国を興奮させた’06年最大の電撃的サスペンス。
 すべての物語がひとつになり驚愕の「真実」が明かされる。〟
新刊情報で目にして以来、どうにも気になっていた1冊。
発売日を失念し、2日ほど遅れたが、読み始めたら、もう止まらない。
ダン・ブラウンの「天使と悪魔」を初めて読んだときより、衝撃的かもしれない。


訳者あとがきで、なかなか的を射た表現を見つけた。
ダン・ブラウン×M・ナイト・シャマラン
ダン・ブラウンマイケル・クライトンと代えても、いいかもしれない。
理由はまあ、読んでのお楽しみなのだが、
とんでもなく新鮮な面白さに満ちた、エンタテインメントだ。


まずは長い長いオビをざっと紹介。これで、大枠が見えてくる。
〝巨大な陰謀に巻き込まれた天才数学者。
 追手をかわし、ひそかに進められる「研究」の謎を暴け。
 前代未聞、徹夜必至の物語のアクロバット
 記念すべき第1回《世界スリラー作家クラブ新人賞》受賞作。〟
〝圧倒的武力で襲いかかる敵。やつらを倒す手はただひとつ−
 確率的にありえない連鎖反応を起こせ。
 炸裂する伏線、伏線、伏線。次々に暴かれる意外な真相。
 この壮絶な戦いの究極の目的とは?!〟
しかし、わかったようでわからない、この紹介ぶりがまた何とも言えない。


ということであらすじ。
デイヴィット・ケインは、「レインマン」とも称される計算能力を誇る統計学の元講師。
謎の神経失調が原因で講師の職を失い、ギャンブル狂が講じて、
破滅への道を突き進むケインがある日かぎ取った、謎の悪臭。
それは驚くべき能力と、信じられない事件への第1歩だった。
国家安全保障局の科学技術研究所にCIA、FBI
謎の二重スパイにフリーランスの腕利き工作員
血に飢えた殺し屋にロシアン・マフィアを巻き込んだ前代未聞の事件の結末は…


冒頭で登場するのは、あの〝にっくき〟確率・統計の問題。
「生徒58人のクラスに同じ誕生日の人間がいる確率は?」
高校3年の時の実力テストで、
50問の解答すべてに「0」と「1」だけ書き込み、見事0点を取った僕としては、
ここで本を閉じるという選択もあったが、グッとこらえ、読み進める。
すると、何だかわかりやすい説明で、何となくわかった気になってくる。


その後も物理でも赤点を取っていた文系人間への挑戦状のように、
難解な言葉が次々に登場するのだが、まったく問題なくすらすらと読める。
量子物理学にアインシュタイン相対性理論
ハイゼンベルクの不確定性理論、シュレーディンガーの猫、
デーヴィッド・ドイッチュの多宇宙理論、ラプラスの魔、ド・モワブルの偶然の原則…
聞いたこともない、もしくは何回説明を聞いても…、という話題ばかりなのに、
不思議なくらい、頭の中に入ってくる。そして、驚きに満ちたストーリーに夢中になってしまう。


ソクラテス、アレグザンダー大王、ジュリアス・シーザージャンヌ・ダルク
モリエールナポレオン・ボナパルト、ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホアルフレッド・ノーベル
そうそうたる面々にも相通じる、とんでもない能力。
そんな能力を図らずも手にしたケインが巻き込まれた事件には、
伏線に次ぐ伏線が張られ、衝撃に次ぐ衝撃の展開につながっていく。
まあ、厳密にいうと、だいぶ反則にも思える部分も多々あるが、
この物語に限っては、それもアリかな、と思えるだけの説得力はある気がする。


あまり内容について細かく説明してしまうと、
面白さが半減しかねないので、「とんでもない」ばかりになるのだが、
それでもあえて繰り返すと、
小説的にありえない」と叫んでしまいそうな、とんでもない展開に、
思わず苦笑いしつつも、ノンストップで引っ張られていく感覚がもうたまらないのだ。
たぶん、物理学に詳しい人が読んだら、突っ込みどころは満載だとは思うのだが、
エンタテインメントとしては、間違いなく面白さに満ちた1冊だと思う。
ことしのベスト本候補としてあげたいくらいの面白さに、
ひたすら興奮しながら、読書の愉悦を満喫したのだった。


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数学的にありえない 上
アダム・ファウアー著 / 矢口 誠訳
文芸春秋 (2006.8)
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数学的にありえない 下
アダム・ファウアー著 / 矢口 誠訳
文芸春秋 (2006.8)
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