マイクル・コリータ「さよならを告げた夜 (ハヤカワ・ノヴェルズ)」
〝弱冠21歳にして、この圧倒的な筆力!
アメリカ私立探偵作家クラブの新人コンテストを
最年少で制した本年度NO.1デビュー作〟
〝アクション満載!
クールな凄腕探偵コンビの活躍を描く新シリーズ〟
早川一押しの新人作家、ということらしい。
オビはイマイチなんだが、これがなかなかイケているのだ。
物語の舞台はオハイオ州クリーブランド。
私立探偵ウェイン・ウェストンの死体が、自宅で発見された。
そして、美貌の妻と幼い娘は姿を消した。
遅々として進まない捜査に業を煮やしたウェストンの父ジョンは、
元警官の私立探偵リンカーン・ペリーとジョー・プリチャードに調査を依頼する。
地元の大立者にロシアン・マフィア、
FBIまで巻き込んだ事件は、クリーブランドの闇を暴き出す。
そして浮かび上がった事件の真相は−
解説によると著者のコリータは、デニス・ルヘインの名作
「愛しき者はすべて去りゆく (角川文庫)」に感銘を受けて、執筆活動を始めたという。
なるほど、軽妙な会話に乗せられて進行していく物語に、
どこか苦み走った悲哀がにじむのは、そこらへんの影響もあるのだろう。
このハードボイルドの最大の特色は、やはり〝わたし〟リンカーンの減らず口だろう。
あるトラブルがもとで〝わたし〟は、常に減らず口を叩きながら仕事に取り組む。
私立探偵と減らず口といえば、定番の取り合わせではあるのだが、
センスよく取りまとめられた語り口には、ある種の様式美のような部分も感じる。
「警察について言えることがふたつある」。
リンカーン&ジョーにちょっかいを出してきた警察について語り出す場面だ。
「第一に、昔から手がかりを見落とすので有名だ。
第二に、おれたちみたいな邪魔くさい探偵屋に対して嘘をつくので有名だ」
なるほど、端的でいて、洒落っ気に満ちた話っぷりなのだ。
そして、かつて麻薬課でパートナーだったジョーは「警察官の中の警察官」。
そのジョーとの会話の端々にも、その洒落っ気はにじみ出る。
たとえば、大リーグ史をめぐる議論。
球史に残る名場面は何か、を熱く語り合う二人。
ちなみに、どちらもワールドシリーズでのホームランだ。
カーク・ギブソン(ドジャース)か、ビル・マゼロスキー(パイレーツ)か−。
いかにも、こういう人たちが交わしてそうな、生き生きとした会話だ。
ほかにも、美人新聞記者のエイミー・アンブローズや、
依頼人のジョン・ウェストンなど、魅力的な人物がぞくぞくと登場する。
確かに、いかにもなキャラクター造型の人物も多いのだが、
語り口のうまいことも手伝って、それぞれが新鮮な印象をもたらす。
それはもちろん、ストーリーそのものにも通じる。
唯一無二、というオリジナリティはなくても、斬新に映るのはそのせいだ。
アメリカでは、早くもシリーズ第二弾が刊行され、第3弾も執筆中とか。
ますます盛り上がりを見せそうで、期待は膨らむばかりだ。