梅田OS劇場で「ユナイテッド93」

mike-cat2006-08-23



実に2週間(以上)ぶりの映画。
何だかやたらと忙しくって、未読の本は溜まっていく一方だし、
観ていない映画が終わりそうでハラハラしつつ、毎日を過ごす。
いまだ消耗が激しくて、体調万全とは言い難いが、この映画は見逃せない。
近く公開予定の「ワールド・トレード・センター」も含め、
あの事件からわずか5年でこんな映画を繰り出してくる、
アメリカという国の底知れぬパワーに、ちょっと複雑なものを覚えつつ、劇場へ。


世界が戦慄を覚えた、2001年9月11日の「あの事件」
ワールド・トレード・センター、そしてペンタゴンに〝特攻〟をかける旅客機。
だが、ハイジャックされた4機のうち、ユナイテッド93便だけは、
ターゲットに到達しないまま、ピッツバーグ郊外に墜落した。
果たして、93便ではなにが起こったのか−。
遺族や関係者の証言をもとに、ドキュメンタリー・タッチで描いた「9・11


実は、いまだにあの「9・11」に関しては、心情的にも整理がつかない。
別に知り合いを亡くしたわけでもないし、直接事件に関わったわけでもない。
それでも、アメリカの文化を愛し、できればアメリカ(の中流家庭以上)に生まれたかった、
と思っている自分としては、あの事件はまさしく凄惨で哀しい出来事だったし、
事実、いまだに「あの映像」を見てしまうと、涙があふれてきそうになる。
映画の序盤、ハイジャック犯たちがニューアーク空港に向かう車中から、
ワールド・トレード・センターを眺める場面だけでも、かなり来てしまう。


でも一方で、あくまでアメリカに虐げられてきた世界の人から見れば、
これまで他人の痛みを十分理解することのなかったアメリカが、
ああいう形で標的になってしまったことは、ある意味必然とも思えるし、
アメリカ軍によって不当に家族を殺された人間は、
まさに天罰、と思っていたかもしれない。そこらへんはあくまで想像に過ぎないが。
さらに、その後に付随して起こったさまざまな出来事を思うと、
あのテロそのものは憎むべきもので、哀しい出来事ではあるのだけど、
あんまりアメリカ人の視点でばかり評価するのはどうなのか、正直判断に迷う。


だから、こういう形で映画にされてしまうのは、正直怖さもあった。
「テロに屈せず」を旗印に、手当たり次第アフガニスタンイラクを討伐して回る、
あの血に飢えたアメリカの姿が、またそこにあったのなら…、という部分だ。


だが、それは杞憂だったようだ。
映画はまず、ハイジャック犯たちの、事件前日の様子で幕を開ける。
アッラーの神に祈りを捧げる、ハイジャック犯たち。
飛行機に搭乗する前には、家族に「愛してるよ」の電話もかけるその姿は、
「アラブのテロリスト野郎ども」ではなく、神を崇め、家族を愛する、同じ人間だ。
もちろん、テロという行為を認めているわけではない。
力で相手を屈服させ、罪なき人(この定義も難しいが…)の命を奪う、
憎むべき犯罪としての視点は、決して忘れてはいない。
だが、いまだに西欧社会に根強い〝アラブ人=テロリスト〟の偏見とは、
一線を画しているような印象を強く受ける、映画の幕開けではある。


当日、現場で実際に業務に当たっていた航空管制官や軍人らも出演し、
ドキュドラマ(というそうだ。いかにも和製英語)として描かれた作品は、
まるでその日がスクリーンに再現されたかのようなリアリズムと臨場感に満ちあふれる。
何が起こっているのか把握できないまま、状況に流されていく管制官たちは、
CNNのテレビ画面によって、ようやく事態の真相を知ることになる。
そして、軍の上層部や政府筋の対応は遅れに遅れ、
何ひとつ対応できないまま、テロリストの攻撃にさらされていく。


そんなリアリズムに圧倒されていううちに、
物語の舞台は、いよいよユナイテッド93便の機内へと、映る。
実はここで起こった出来事は、生存者がいないため、真相はまったくわからない。
遺族が乗客から受けた電話などをもとに、
「こうであったのではないか…」「こうであったら、まだ救いがある…」
という想像と希望を元に、グリーングラスが脚本に書き起こしたものだ。


だが、管制塔でのドラマのリアルさに引っ張られ、
この機内の出来事も、本当に起こった出来事そのもののように思えてしまう。
コクピットから目にする、地面が近づいてくる映像なども含め、
体験したことがないはずなのに、リアルに感じる映像作りもものすごい。
まあ、乗客による蜂起は事実あったようだし、
グリーングラスがもっとも主張したいであろう、
「乗客たちは、状況の中で最善を尽くしたと思われる」ということには異論はない。
だから、観る人にとっては、まるまる真実のドラマと受け止められかねないな、
という戸惑いを感じつつも、この、深く胸を打つドラマに思わずのめり込むのだ。


何はともあれ、観る前も、観た後もいろいろ考えさせられる映画だ。
実際のところ、よくできた映画だとは思うが、
先にも書いた〝リアルすぎる〟作りも含め、どう評価していいのか、よくわからない。
少なくとも、遺族の感情に最大限配慮を行った作品ではあるから、
違う立場の人間からすると、美化されすぎているのではないか、という疑問も生じる。
ただ、それでもやはり見応えのある映画であることは間違いない。
あの同時多発テロを語る映画の、ひとつの到達点ではあるのだろう。
そんなことを思いつつ、エンドクレジットを呆然と眺めたのだった。