戸梶圭太「牛乳アンタッチャブル (双葉文庫)」

mike-cat2006-08-10



2000年夏、日本中を震撼させた、
あの雪印乳業・集団食中毒事件をトカジが小説化!
(といっても、2002年刊なのだが…)
あのバカバカしい事件が、もっとバカになって帰ってきた。


大阪一円で、〝雲印〟の低脂肪乳を飲んだ消費者が、
次々と吐き気と腹痛を訴え、病院に担ぎ込まれた。
原因は原料に使われていた腐った脱脂粉乳
会社幹部が無責任な対応を繰り返す中、
汚染の実態が明らかになり、そのルーズな企業体質が暴かれていく。
以前から危機感を訴えていた人事担当の役員・柴田は、
会社再建をかけて〝クビキリ〟チームを結成したが−


あの事件といえば、
記者会見で社長が吠えた「わたしは寝てないんですよ」があまりにも有名だ。
自分たちが作った腐った牛乳で、多くの人が苦しんでいるのに…
誰もがそう思った瞬間の、記者の怒鳴り声が最高に見当違いだった。
「こっちだって寝てないんですよ!」。
それ、そこでは関係ないだろ。記者が寝てないのは、あくまでその新聞社の問題だし。
だけど、あまりの社長の非常識ぶりに、
その記者の憤りもなぜか〝正当なもの〟になっていたのがとても印象的だった。


そんなおかしな感覚に満ちた、非常識きわまりない事件と、
それにまつわるメディアの集団ヒステリーが、トカジの手にかかると、
さらに激安度をヒートアップさせた、最高にイカれたブラック・コメディに変貌を遂げる。


だいたいが、〝雲印〟というのが、単純だけど絶妙だ。
読み進めていくうちに、目と脳は無意識に〝雪印〟という文字に認識している。
そして、社長を始めとする、腐れ牛乳会社の面々も最高だ。
どこまでが現実の事件として起こったことで、
どこからが戸梶圭太によるデフォルメなのか、区別がつかなくなってくる。
まあ実際、そのくらいどうしようもない連中が溢れていたのだろうから、当然だが、
そのバカっぷりや、激安っぷりには、やはりトカジ!と思わず唸ってしまう。


もちろん、激安&バカだけじゃない。
あの腐れ会社の面々を徹底的にバカにし、斬り捨てた、その返す刀で、
製造者の立場も考えず、必要以上に〝安いもの〟を欲しがる消費者、
正義の名のもと、ヒステリックに一般大衆を煽るメディア、
そして、こんな連中を生み出した、社会そのものに、その刃は向けられていく。


そして、この小説、終盤で登場するセリフや会話が、やたらと秀逸だ。
「まったくどいつもこいつも…国会はなぜバカ殲滅法を作らないんだ!
 俺以外は皆終わってるじゃねえか!」
これをその、バカ本人が言っているのだから、もうとんでもない。
現実社会でもこういうやつがウヨウヨしてるかと思うと、
笑ってしまうのを超越し、むしろ怖さすら感じてしまうのだ。


何でこんな事件が起こったのか、の話題から派生する、この会話もいい。
「ほとんどの人間がやりたくないことやって生活費稼いでるんだから、
 手抜きもしたくなるでしょうね」
「やっぱ人間、貧乏になってもやりたいことをやったほうがええですよね。
 やりたくもないことやって結局貧乏なのと、
 貧乏だけどやりたいことやってるのじゃ較べるまでもないや」
「でも、やりたいことが見つからない人もたくさんいるわけやないですか」
「いや、それは本人が悪いんや。
 好奇心を持ってアンテナ張って生きてりゃ、やりたいことなんてすぐに見つかるんや」
うんうん、そうそう! とこちらも思わず頷いてしまうのだ。


いわゆるトカジ作品としては、ともすると、
暴走ぶりはやや抑えめ(あくまで戸梶圭太にしては、だが)にも感じる。
だが、その毒に関しては、勝るとも劣らない、パワーに溢れた小説。
いま、劣悪な環境下で長時間労働を強いられているのだが、
そんな中でも、思わずどんどん読み進めてしまうような、1冊だった。


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牛乳アンタッチャブル
戸梶 圭太著
双葉社 (2004.5)
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