日向旦「世紀末大バザール 六月の雪」

mike-cat2006-07-31



第15回鮎川哲也賞の佳作。
〝あと一月生活するために選んだ職業は、探偵?!
 依頼された家出人捜索中に、
 なぜか奇妙な事件が二つも勃発!〟


時は1999年5月−
ノストラダムスの大予言の、恐怖の大王降臨まであと一月。
28歳になったばかりの夢想的なアナーキストである、〝俺〟本田巧は、
世界滅亡より早くなりそうな我が身の滅亡を避けるため、大阪へ。
たどり着いた新世界、通天閣ビリケンさんのご宣託で、泉州へ流れる。
食堂で遭遇した2人組の話に割り込んだ〝俺〟は、
ふとした思いつきから、探偵を名乗ることにしてしまう。
だが、奇妙なアジトに連れられていった〝俺〟は、奇妙な密室事件に遭遇。
奇妙な人々に、奇妙なオカマに囲まれ、捜査を始めた〝俺〟だが…


どうにもこうにも、何だか変わった小説である。
巻末の解説にもあるのだが、
この作品が鮎川哲也賞というのがまず、かなり妙である。
謎解きはもちろんあるのだが、それはあくまで副題。
本格ミステリ、というのやつに分類するには、かなり無理がある。


そして、登場する人々だ。
タマネギ畑が広がる泉州にそびえ立つ、異様な建造物〝モール〟。
いわく、モールにしてアジトにしてキガンジョウ。
そこに住まう共同体の人々は、
リーダーの源さん、厨房、大工に、やたらとかわいい〝オカマ〟のリィ…
そこで起こる奇妙な事件も、目的、手段すべてが謎、とあって、
どこかつかみどころのない、不思議な物語世界が展開していく。


基本は青春ハードボイルドなのだが、その主役たる〝俺〟がまず謎だ。
実はこれが一番最初に登場する謎でもあるのだが、
世界滅亡を目前に切羽詰まって、大阪・泉州へと流れていく〝俺〟の正体。
そして、最後まで謎のままに終わる、冒頭の陰惨なシーン。
(もしかすると、ちゃんと読んでいないだけかもしれないが…)


唐突な展開に戸惑いつつも、引き込まれていく不思議な引力。
欠点を論っていけば、そこかしこに論理の破綻はあるし、
物語全体にまとまりを欠くような印象も強いのだが、クセになる物語。
だが、いくつもの謎に包まれたまま、相次ぐ事件に対峙する〝俺〟の、
どこかクールで、どこかユーモラスな語り口が、心地よい小説だ。


この設定を生かして、よく練ったストーリーの続編を書いたら、
一気にブレイクしてもおかしくないような、潜在能力のようなものも感じる。
この作品だけでは、まだ評価は早いかもしれないが、
今後が気になる作家の登場かもしれないな、とほくそ笑んでみたのだった。


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