アレックス・バーザ「ウソの歴史博物館 (文春文庫)」

mike-cat2006-07-25



世界中のウソや大ボラ、ペテンに悪戯、
エイプリルフールのジョークなどを集めた
〝The Museum of Hoax〟をまとめた本。
(ウェブサイトは http://www.museumofhoaxes.com/
表紙は、とあるビルの屋上での記念撮影写真。
後方には、航空旅客機らしきものが迫っている。
世界貿易センタービルに突入する旅客機。
            2001年9月11日撮影。〟


決定的瞬間!! ではもちろんない。オビはこう続いている。
〝もちろんインチキなんですけど〟
古今東西、世界を騒がせたウソ、
 インチキ、デッチ上げの数々を一挙収録!〟
中世の壮大なウソから、悪趣味なジョークから、
罪のない悪ふざけなどなど、様々なウソが散りばめられた1冊だ。


背表紙のオビはこんな感じ。
〝本書には、こんなウソが紹介されています。
 ① スイスにはスパゲティのなる木が存在する。
 ② 中国政府、万里の長城の取り壊しを計画中。
 ③ 新聞記者マーク・トウェインの捏造記事。
 ④ オーストラリア近海に巨大氷山が接近。
 ⑤ マイクロソフトカトリック教会を買収。〟


訳者あとがきによると、出版のきっかけは、
サンディエゴで科学史を研究する大学院生が、
卒論作成から逃避がてら収集を始めた、世界の大嘘サイトだという。
そのウェブサイトの名前は、「〝Hoax〟の博物館」。
巻頭に、オックスフォード英語辞典が引用されている。
Hoax(動詞):愉快な、あるいは迷惑な捏造や作り話を
        信じこませることによって、だましたり惑わせたりする。
        人の軽信性につけこむ


本の中では、時代によって選り分けられた嘘が、ずらっと展示される。
第1章では、中世における教会の偽造文書を皮切りに、
実は中国に行っていなかった? マルコ・ポーロの「東方見聞録」、
エイプリル・フールの起源などが取り上げられる。
そして、ベンジャミン・フランクリンエドガー・アラン・ポー
マーク・トウェインら歴史上の人物たちによる様々な悪戯も興味深い。


新聞の登場や、写真の発明といった、
社会的な事件との関連性もきちんと考察されている。
売らんがため、に小さな出来事を針小棒大に取り上げ、
時には事件そのものを捏造してしまうメディアの起源であったり、
いまでも半ば信じられている「カメラはけっして嘘をつかない」という、
思い込みがもたらした、とんでもない珍獣や珍事件の数々も紹介される。
ネス湖の怪物ネッシーやビッグフットなどなど…
たまに東スポなんかでやっている、
タブロイド紙特約の「世紀のスクープ」みたいなのが満載だ。
オーソン・ウェルズのラジオ放送が世間にパニックを巻き起こした、
宇宙戦争」(H・G・ウェルズ)のエピソードも、もちろん紹介されている。


映画の元ネタとなるエピソードも数々見られる。
クイズ番組<トウェンティ・ワン>での不正が暴かれた事件は、
ロバート・レッドフォードが映画化した「クイズ・ショウ」になったし、
架空の女優、アレグラ・コールマンの事件は、アル・パチーノ主演、
アンドリュー・ニコル監督(「ガタカ」)の「シモーヌ」さながらだ。


近年のものになると、
マイクロソフトによるバチカン買収やミステリーサークル、
バーガー・キングの「左利き用ワッパー(ハンバーガー)」
オークションサイト、eBayでのとんでもないアイテムの数々が紹介されるほか、
そして「9・11」以後の〝嘘の傾向〟なども考察されている。
驚いたのは、ジョージ・W・ブッシュのIQの問題だ。
歴代大統領の中で最低の「91」というのは、
この本を読むまで、ずっと真実だと思っていた。
(実際、そう高くはないだろうことは、容易に想像できるが…)


というわけで、夢中になって読む類の本でもないのだが、
興味深い本、という言い方が、もっとも正確だと思う。
軽い気持ちで読み始めてみると、意外に深遠さで、
バラエティに富んだ嘘の数々に魅了されている、という仕組み。
くだらないウソ…、と思っても、実はどこかで騙されているかもしれない…
そんな苦い気持ちも抱きつつ、本を閉じるのである。


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ウソの歴史博物館
アレックス・バーザ著 / 小林 浩子訳
文芸春秋 (2006.7)
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