大崎梢「配達あかずきん (ミステリ・フロンティア)」

mike-cat2006-07-20



id:juice78さんのところで見かけ、手に取った1冊。
〝書店の謎は書店人が解かなきゃ!〟
というわけで、書店を舞台にした日常ミステリ連作集だ。
〝胸が締めつけられるような恋愛ドラマもあります。〟
〝元書店員が描く本格書店ミステリ!〟


威風堂書店は、女性向けブティックが主体の駅ビルの6階にある本屋さん。
客層は女性中心だが、時間帯によってはサラリーマン層も目立つ。
そんな威風堂に次々と舞い込む事件。
しっかりものの書店員・杏子と、
勘のいいアルバイト店員・多絵が、その謎に挑む−。


日頃、書店によく行く人ならご存じだろうが、書店を訪れる客はさまざまだ。
この本の中でも、バラエティに富んだ〝困った〟客が登場する。
タイトルも著者も内容もわからない本を探す客であったり、
立ち読みどころか、雑誌の内容を携帯にメモする客であったり…
そして「本の雑誌」などでもよく取り上げられる、書店員の過酷な現状。
信じられないほどの新刊点数をさばき、棚を入れ換え続ける毎日。
納入冊数や予約、追加注文にまつわるトラブルは日常茶飯事だ。


そんな書店の日常を舞台にする、というのは、まさにコロンブスの卵。
とりとめのないヒントだけを頼りに、目指す本にたどり着く過程は、
本読みにとってまさしく、もっとも身近な日常ミステリといってもいいだろう。
実際、自分自身では書店員に何かを訊ねる、ということはほとんどしないので、
微妙なところで〝実感〟みたいなとこまでは感じないのが残念だが…


冒頭の「パンダは囁く」では、
急に体調を崩した老人による、謎の〝本のリクエスト〟を探る。
「あのじゅうさにーち いいよんさんわん ああさぶろうに」
に隠された本の謎は、やや強引ながらも、なかなかに読ませる。


「標野にて 君が袖振る」は、
大和和紀による源氏物語の漫画化作品、
あさきゆめみし」にまつわる謎に、杏子と多絵が迫っていく。
突然の事故に奪われた、ある恋の顛末が哀しくも美しい。


表題作「配達あかずきん」は
マイペースでとんちんかんな〝あかずきん〟ちゃん、
博美が、本の配達途中にまきこまれた事件を描く。


「六冊目のメッセージ」もなかなか秀逸。
入院中の娘への差し入れ本を頼んできた母に対し、
華麗なまでのセレクトで本をチ薦めた〝謎の店員〟。
その店員が選んだ6冊目の本とは一体何なのか−。


「ディスプレイ・リプレイ」は
出版社主催のディスプレイ・コンテストの展示が荒らされる事件を描く。
ここでは、人気漫画にまつわる、ある謎がテーマになっている。


日常ミステリとしてのクオリティも高いし、書店という視点も新しい。
語り口の滑らかさも含め、書店通いを楽しむ人には、存分に楽しめる1冊だ。
威風堂書店事件メモ、これからも楽しみにしたいシリーズ。
9月刊行予定の続編「晩夏に捧ぐ」をまずは心待ちにしたい。


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