勝手に恨みシュラン@黒門「川ひろ」

店先のごみ箱が目印です♪



もうすぐ土用の丑の日、ということで、
以前から行ってみたいと思っていた、黒門「川ひろ」へ。
雑誌などで見かけることもあったし、
大阪に古くから住む知人からも薦められいた。
しかし、月〜木の11時〜16時という営業時間、
それも記事などによっては全然間違っていたりして、
すぐ近所なのに、意外と行く機会がなかったのだった。


以前、電話で確認していた開店時間の11時を少し回ったところ。
しかし、のれんは中にかけてある状態。
戸が少し開けてある。
開店しているかどうかを尋ねると、もう大丈夫との返事。
それでは、と「じゃあ、すいません」。
しかし、返事はおろか、「いらっしゃい」もない。あれ?


内側ののれんをくぐると、乱雑に散らかった様子が目に入る。
清潔とは、お世辞にも言い難い店内だ。
鰻を焼いている以上、油汚れはしかたないが、
ほこりっぽさ、乱雑さは手抜きの証拠だ。
カウンターテーブルも正直あまり…(ぺとぺと、って感じ)
店先のごみ箱といい、どうもあまり衛生観念というのは感じられない。
まあ、老夫婦でやってる店だから、とまずはこの日最初のガマン。


入店の際に締めてしまった戸を、おかみが苛立たしげに開けに行く。
「煙が出てるからね」
ああ、それは申し訳ないことをしましたね。


店内に腰掛けると、しばらく、放置プレイが続く。
どうやら、注文の弁当の準備があるようだ。
余裕がなさそうなので、しばらく様子を見ていると、
弁当につけるキュウリの漬物を準備している。


まる1本のキュウリの漬物がつく、とは聞いていたので、
そうか、あれか、と思っていると、赤いふたのガラス瓶が登場する。
透明な顆粒がキュウリの上で舞う。
もしかして、ではなく、それはまごう事なき味の素
あ〜あ、外したかもという予感を、「でも、鰻は別だから」と抑えこむ。


入店して5分以上経ち、ようやくお茶が出る。
茶碗2つと、急須がろくにものもいわずに差し出される。
急須には、お茶の葉のカスがべっとり。
それも、いまさっき着いたようなものとは思えないのが…
「いや、年寄りの店だから、こういうことも…」。
目的は鰻、お茶に文句を言ってもしかたないと、再び自分を言い聞かせる。


しかし、いつまで経ってもいわゆる〝お品書き〟は出てこない。
それどころか、まむし2人前を受けたかどうかの確認もない。
気にせず声を掛けて、注文するテもあったのだが、
老夫婦の余裕のない様子を見るにつけ、
まあゆっくり構えるか、と伸ばし伸ばしにしていたのだ。


だが、もう仕方ない。
おかみさんの仕事が一段落したところで声をかける。
「お品書きみたいなものって、あるんですか?」
「うちにはない」との返事が返ってくる。
はて、確かう巻きとかあったはずと思い、尋ねると、
「あるけど時間かかるよ」。
いきなり捨て台詞。というか、あるのか、ないのかどっちだ?
それに、時間かかるのは、
きちんと作った鰻丼も同じなはずだが、どうなんだね?


さらにおかみ、店主に向けてこう続ける。
「いま、う巻きとかやってたっけ?」
おい、あんたたちの店だろ? 


とりあえず、お任せならお任せでいいのだ。
「2人前ね」でも何でも、ひと言でも言えばいいのだ。
それで訊かれたら「うちはまむしだけ」とでも、何でも言えばいい。
だが、そういう肝腎なことは、結局うやむやにしたまま何もいわない。
常連客ならわかっている、ということだろうが、
常連になるためには、とりあえずは最初、一見として来ないとなれないのだ。
それがいやなら、紹介制にでも、会員制にでもすればいいのだが、どうだね?


とにかく、作るのがいやそうなので、「じゃあ、いいですわ」。
まだこの時点で何も注文を確認されていないのだが、
もしかしたら勝手に焼いているのかもしれないし、
まだ弁当の注文もさばいてるかもしれない。
放っておくしかないと判断、
もう、さっさと鰻丼食べて、
さっさと帰ろうかな、ということで、あとは放っておく。


カウンターから見える作業の様子は、かなり緩慢だ。
まず、入店後、鰻を裁いた様子はまったくない。
あらかじめ下準備した鰻をポンとガスレンジで焼くだけ
(レンジは特製なのかもしれないが、
 それでもガスは水蒸気が出て、焼き上がりがベチャッとするのだが…)
真っ当な〝こだわりの〟鰻の店を気取るなら、
その場でその場で注文を受けてから、裁いてほしいものだ。


そして、何となく焼き上がったらしい鰻が、まな板の上に置かれる。
黒い。
焦げている。
特に串先あたりは、かなりまずいかも…。
そんな思いを胸に、店主の手先を見ていると、
その串先の焦げを取るため、ふきんなのだろうか、
何度も使用されたと思われる、やや危険そうな布が登場する。


串先どころか、鰻の身にまでふきんがかかり、こげを削いでいく。
「見なかったことにしよう」。
もう、焼いている以上、そうはまずいこともないはずだし、
第一、注文一つ確認していない以上、あれは弁当用かもしれないし…
いろいろ自分をごまかし、やり過ごすことにする。


だが、ここで決定的な事件が起こる。
きっかけはつまらないことだった。
ここで、通りかかりの客が店先から、営業時間を尋ねたのだ。
おかみがうるさいとばかりに、怒鳴るような口調で言い放つ。
「11時から4時、月曜から木曜まで !」
どうも、何度も訊かれてウンザリしているらしい。


しかし、訊かれるのがイヤなら、紙一枚店先に張っておけばいい。
訊かれる側は何百回でも、客にしてみたら、
訊かないとわからないから一人一人が訊いているのだ。
第一が、それすらイヤなら客商売などしなければいい。
このテの店は偏屈とは承知しているが、それにしてもひどい。


で、その営業時間を訊いた客は、結局入店せず、戸を閉める。
苛立たしそうに、閉まった戸を見やる店主とおかみ。
気を遣って、おかみに尋ねる。
「開けときましょうか?」。
おかみが答える。
「そうですね、いいですか」


しかし、ここで店主がいきなり騒ぎ出す。
「お節介なんだ。ほっておいてくれ!」
「ヘンな気なんか遣わなくていいんだ!」
「話しかけられたら、気が散って焼けやしない!」
「こっちは仕事をしているんだ。いちいち何度も訊かれたら邪魔でしょうがない」
どうも、訊いて差し上げたのが、癪にさわったらしい。


だが、ちょっと待て。
あんたとはまだろくに声を交わしていないぞ?
第一、訊いたのはお品書きがあるかどうか、と閉めましょうかの2回。
それも、おかみに訊いただけなのだ。
通りがかりの客や、日頃の分の不満までぶつけるな


それに、放っておいてくれ、というなら、こっちも放っておいてくれ。
邪魔になるくらい、しつこく訊いたわけでもない。
ただ1回、訊いただけだ。
それに何か訊いてきたら、
いきなり怒鳴らないで「別にいいですよ」と言えばいい。


第一、こちらは失礼な口調で言っているわけではないのだ。
おかみに話しかけられたぐらいで、
店主は気が散って焼けないくらい、余裕がないのなら、客相手に焼くな。
それに、そこまで繊細にこだわりを見せるなら、
ガスじゃなくって、ちゃんと炭で焼いてから言ってくれ…


その後もしつこく「お節介だ」「ほっておいてくれ」と繰り返す店主。
この間ずっと、目の前の鰻にはツバらしきものが飛んでいる。
ついに、ここでもう限界。
楽しい昼食を取りに来て、ここまで不愉快な思いをさせられてはたまらない。
「もう、結構だ」。席を立つ。
すると「もう、鰻は焼けてるんだ!!」。
まさに口角泡を飛ばし、怒鳴る店主。
あ〜あ、またツバ飛びまくり。
汚染度数はもう、中国産の農薬鰻を越えてしまった。


それに、ここまで言われたから反論するのだが、
だいたいが店主、あんた注文すら訊かずに作っただけだろうが?
「こんな不愉快な思いさせられて、
 そんなツバの飛んだもの食べられるか!!」
言い残して、店を出る。
こんなことよほどの事がない限りしない。
だが、この店はあまりにひどすぎる


美味しんぼ」の山岡士郎だって言っている。
〝こんな店では、うまいまずい以前に、何も食べてはいけない〟


赤の他人に対し、
それまでろくに対応すらしなかった人間が、いきなり怒鳴りつける。
もう客商売どうこう以前に、
人対人として、許容範囲を越えているのだ。


もしかすれば、言い分もあるのかもしれない。
東京の人間が気に食わない、
地元の客だけで商売している(ちなみに、僕はまさに近所の客なんだが…)
しかし、それなら、雑誌の取材など受けなければいい。
店内に、うれしそうに掲載誌など置いておかなければいい。
だいたいが、黒門市場の商店街振興組合のサイトでは
〝ご主人は「大阪の味である鰻飯をもう一度日本中に広めるよう
 力一杯頑張る」と張り切って〟いる、とあるのだ。


ここまで読んで、
「店主がそんなに怒るなら、お前にも何か失礼なことがあったはずだ」とか、
「以前訪れたときは、そんなことはなかった」と思う人もいるだろう。


だが、まず最初の件に関していえば、
客だから威張って注文したり、ということはしていないし、
だらしない服装で入店したわけでもない。
営業時間を無理に変えさせたわけでもないし、
無理矢理入店したわけでもない。あくまで確認の上である。


話しかけたのは「お品書きはありますか?」「戸を開けましょうか?」。
それに対し、いきなり怒鳴り散らすのは、
〝名店〟の店主だか何だか知らないが、許されるわけではない。
第一、ガスで鰻焼いた挙げ句、味の素まで使っておいて、
大阪の味だの、こだわりの店主だの何も、あったものではない。


「以前訪れたときは〜」という方には、
それも事実なのでしょう、としかいいようがない。
自分の体験だけで、何もかも決めつける気はない。
だが、これだけは間違いなく言える。
店主の気分次第で、客はどうにでもされてしまう店、ということだ。


何にせよ、ここまで気分の悪い店は初めて。
同じ鰻で、名古屋の老舗「宮鍵」もひどかったが、問題にならない
鰻は別のお店を探して食べればいいのだが、
せっかく都合をつけ、楽しみにしていた時間を踏みにじられたのは許せない。
せめて、これを読んだ人がお店を訪れるのをやめてくれることを祈るのみだ。
もちろん、
「そんな偏屈オヤジに怒鳴られたい♪」
「ガスで焼いた鰻と、味の素が大好き♪」と思って、
一人前三千数百円を払う気がある方には、それ以上いう気もないのだが。