ジョシュア・デイビス「負け組ジョシュアのガチンコ5番勝負! (ハヤカワ文庫NF)」

mike-cat2006-07-09



〝爆笑と感動の嵐! 僕だってヒーローになれる!〟
〝一風変わった競技に自分の活躍の場を
 探し求めた男の悶絶チャレンジ生活。〟
ハヤカワのノンフィクション・ブログで、
「ことし一番おもしろい」と紹介されたノンフィクション。
http://hayakawanonfiction.boxerblog.com/blog/2006/06/post_e076.html


イケてないタイトルと、イケてない表紙で敬遠していたのだが、
読んでみると、「何じゃこりゃ」という圧倒的な面白さ。
ヒョロヒョロのメガネ君の世界をまたに掛けた〝大活躍〟に、
思わず笑いをこらえられなくなってしまう、そんな傑作突撃ルポなのである。


原題は〝The Underdog〟、まんま〝負け犬〟だ。
30歳を目前にした、作者のジョシュア・デイビスは途方に暮れていた。
地元電話会社のデータ入力係の仕事も辞め、銀行口座にはわずか800ドル。
ろくに陽の差さないアパートで、教師の妻の収入を頼りに食いつなぐ毎日。
凡人としての現実を受け容れ、平々凡々の人生を送るか、それとも−。


平々凡々の暮らしが悪いわけではない。
その中でも自分なりの喜び、自分なりの幸せを見つけていくのも人生だ。
だが、ジョシュアの心には、幼い頃、父が子守歌代わりに話してくれた、
望んだものに何でもなれるヒーロー〝イプスキ・ピプスキ〟の魂が宿っていた。
だが、そこはチャンスの国、個性の国、そしてアメリカンドリームの国。
〝なりたければ何にでもなれる〟というアメリカの理想。
だけど、スポーツの才能もなければ、ビジネス界の階段を駆け上がる学歴もない。
一度は夢をあきらめかけたジョシュアだったが、
〝イプスキ・ピプスキ精神〟は、思いがけない形で戻ってくる。


身長170センチ、体重60キロ足らずのジョシュアが見つけた目標。
それは何と、その体格とは対極にあるはずのアームレスリングだった。
〝なぜか〟アメリカ代表として世界選手権に出場することになった、
ジョシュアの挑戦は、その後もとどまることを知らなかった。
その後も闘牛士、相撲、後ろ向き走り(!)、灼熱サウナの我慢比べ…
今なら「TVチャンピオン」、昔なら「びっくり日本新記録」みたいな種目ばかりだが、
やってる本人はまじめそのもの。だからこそ、やたらと笑えるし、ちょっと泣けたりもするのだ。


だが、まさしくドタバタの大騒動が展開されていく中で、
ジョシュアは〝イプスキ・ピプスキ〟のように、なりたい自分になっていく。
もちろん、スポーツ界のスーパースターでもないし、ビジネスエリートでもない。
それでも間違いなく、かつての〝負け犬〟ジョシュアから脱却していく。


一方、そんな淡い感動を描き出す筆致は、ユーモアに満ちている。
ナルシスティックで独善的な自己実現とは一線を画す、
エンタテインメント性に満ちた、楽しいドラマが展開されていくのだ。
この本の執筆中に「Wired」のライターになってしまったりして、
実際のところ「才能もない負け犬」ではないのだが、
それもこれも、夢をあきらめないチャレンジがあってこそ、なのだ。


こうして紹介していくと、何だか感動テイストが強そうに思えるが、
何度も書いている通り、軽妙なタッチで描かれるドタバタ劇は、まさしく爆笑もの。
そのまんま映画化しても、何だかすごくいい映画になってしまいそう。
そして、読んでいるうちに何だか
「自分にも何かが…」となってしまいそうな、ちょっと危険な匂いも発している。
夢を忘れた凡人としては、とにかく刺激の多い1冊なのであった。


Amazon.co.jp負け組ジョシュアのガチンコ5番勝負!