森下裕美「大阪ハムレット (1) (ACTION COMICS)」

mike-cat2006-07-06



〝読むと心があったかくなる
  森下流人生劇場“喜怒哀楽”てんこ盛り!〟
少年アシベ」「ここだけのふたり!!」の作者による、
笑いと涙の人情ドラマを詰め込んだ1冊。
少年アシベ (Vol.1) (ヤングジャンプ・コミックス) ここだけのふたり!! (1) (Bamboo comics)

〝あったかくなる〟とはいうものの、いい話すぎないのが特長だ。
毒にも薬にもならない、ユルい〝いい話〟なんてまったくない。
人間の弱さもあれば、毒もある。
あくまでも人間くさく、そしてマンガらしいコミカルさを交え、
描かれる人情譚は、まるで上質の落語を聞いているような、そんな感覚だ。


お父ちゃんの死後、すぐに〝おっちゃん〟と住み始めたお母ちゃん。
ハムレットに例えられたユキオの、何となくな日々を描いた表題作。
大好きだったアキおばちゃんを想い、女の子になることにした、
小学4年生、ヒロ君の苦闘を描いた「乙女の祈り」。
なかなか子供ができない為善とアイコの夫婦と、
甥のヨシ君たちの揺れる心を優しく描いた「名前」。
大学生と偽る中学3年生マー君と、
歳上でファザコンの由加の、どこか儚げな恋を描いた「恋愛」。
乙女の祈り」のヒロ君が、女の子としてひと夏を過ごす「おんなの島」。


「名前」が印象的だった。
意地悪な子供を怖がり、小ずるく立ち回ろうとする卑怯なヨシ君を
「自分の弱さ、謝って済ますな!」と、どやしつける母の姿が、ジンとくる。
「恋愛」に登場する、愚直なマー君の姿も、笑ってしまうけど、
由加との不器用な恋愛を、温かい目で見守ってあげたくなるのも確かだ。
「おんなの島」でも、人間くささが光ってる。
おしゃれだけが女らしさとはき違えるヒロ君に、
ついつい意地悪いことを言ってしまう、波江ねえちゃんが後悔する様子。
何だか、思わず「うんうん、何だかわかる」と言ってしまいたくなる。


初期の作品「荒野のペンギン 1 (ヤングジャンプコミックス)」の頃からの、
森下裕美の味が、より昇華されたような印象を受ける、味わい深い1冊。
連載している「漫画アクション」の懐の深さも、つくづく感じさせる。
「モーニング」(というか「アフタヌーン」)同様、マーケティング至上主義に抗い、
当たり外れはあっても「いい漫画」「面白い漫画」を世に出そう、という、
〝遊び〟を忘れない漫画雑誌だな、といまさらながら感心もさせるのだった。


Amazon.co.jp大阪ハムレット 1 (1)