米沢穂信「春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)」

mike-cat2006-06-25



さよなら妖精 (創元推理文庫)」文庫化に合わせ、米沢穂信強化週間。
〝そしていつか摑むんだ、あの小市民の星を。〟
〝小市民を目指す小鳩君と小佐内さんのコミカル探偵物語
小市民の星、というのが何とも笑ってしまうのだが、
高校生ならではの、何となくヘンなこだわりっぽくて、それも一興だ。
しかし、小市民と星って、普通つながらないような気もするのだが…


高校に進学したばかりの小鳩君と、小佐内さん。
恋愛関係にも依存関係にもないが、互恵関係にある二人は、
きょうも手に手を取り合って、清く慎ましい小市民を目指している。
それなのに二人の前には頻繁に奇妙な事件が勃発する。
ポシェット喪失事件に、不可思議な二枚の絵、
おいしいココアに秘められた思わぬ謎に、テスト中に割れるガラス瓶…
名探偵面をして、目立ちたくない。でも謎は解かねばならない−。
二人は果たして、小市民の星を摑み取ることができるのか?


ここでいう、小市民の定義がなかなかに面白い。
〝クラーク博士は北海道大学の学生に「紳士たれ」という言葉を残したけれど、
 ぼくと小佐内さんも似た信条を持っている。
 「紳士」によく似ているけれど、それよりはもうちょっと社会的階級が低い。
 「小市民たれ」。
 これ。日々の平穏と安定のため、ぼくと小佐内さんは断固として小市民なのだ。
 もっとも、その表れ方はちょっと違う。小佐内さんは隠れる。ぼくは、笑って誤魔化す。〟


平穏無事な毎日を送りたい。
何だかやたらと老成したイメージだが、よくよく思い出してみると、
実際こういう高校生っていたよな、という気もする。
そして、その「小市民たれ」を徹底してしまうあたりも、
これまた高校生らしい、妙にねじれた情熱っぽいのだ。


その小市民的こだわりは、トラブルと出逢った時も、存分に発揮される。
〝ぼくたち二人はあまり人情派ではない、けれど、冷血でもないのだ。
 儀礼的関心ならともかく、冷淡とかクールとかは小市民的徳目ではない。〟
だから、目立ちたくはないが、解決に力を貸さざるを得ない、というジレンマに悩まされる。
その悩みっぷりもまた、何となくねじれたセイシュンっぽくて、何だか楽しいのだ。


日常ミステリふうに登場する数々の事件と、
その解決はやや薄味な印象もあるが、それはあくまで瑣末な問題。
あくまで、小鳩くんと小佐内さんの毎日を見守るのが、この小説の魅力だと思う。
思わず一気読みして第2弾「夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)」を手にする。
楽しい本の続編が、すぐ読み始められる幸せ、これもまた何ともうれしいのである。


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