伊坂幸太郎「陽気なギャングの日常と襲撃 (ノン・ノベル)」

mike-cat2006-06-21



映画化された「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」の第2弾。
人間嘘発見器の成瀬、演説の達人響野、
人間タイムウオッチの雪子、天才スリの久遠。
4人の陽気なギャングたちの日常と、新しい事件を、
周到に用意されたプロットと、軽妙な会話で綴る。


今回の〝事件〟は、4人の日常を追った連作で幕を開ける。
神奈川市役所に勤める成瀬と、その部下が遭遇した立てこもり事件、
茶店店主の響野のもとに持ち込まれた「幻の女」の謎、
雪子の会社で起こった、人気喜劇役者のチケットをめぐる顛末、
そして久遠が公園で見かけた、突然の殴打事件の行方…
一見無関係なそれぞれの出来事が、奇妙な連鎖を見せたとき、
4人の史上最強のギャングたちが、いよいよ本領を発揮する。


今回もさえ渡って(!?)いるのは、やはり演説の達人、響野の戯れ言の数々だ。
ろくに話も聞かない響野が、ひとにこう言って聞かせる。
「相手の話を十聞いたら、三喋る、それぐらいがちょうどいい」
案の定「響野さん、人の話を聞いたためしがないじゃないか」と突っ込まれる。
すると、平然とこう言い放つのだ。
「こういうことわざを知っているか
 〝わたしの言う通りにやれ。わたしのやる通りでなく〟」
そして、久遠との〝かみ合わない会話の妙〟は、
響野のキャラクターを最大限に輝かせる見せ場ともなる。


例の襲撃場面での演説ももちろん、笑わせてくれる。
アレクサンダー・ベルの「もしもし?」から始まり、
ガガーリン犬養毅アインシュタイン、そしてなぜかE.T.と連なる喋りは、
あきれるを通り越え、感心すらてしまう次元に達している。
実際の銀行強盗に、こんなことを演説されたら…
そんなことを考えるだけでも、本当におかしくなってしまう。


伊坂幸太郎らしい、妙なこだわりを感じさせる会話もおかしいし、
物語の世界へ心地よく誘ってくれる絶妙のプロットも、たまらない。
シリーズならではの安定感に甘えない、丁寧な人間ドラマも含め、最高に楽しめる1冊。
たとえマンネリ化してもいいから、また出逢ってみたい4人組である。


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