佐々木譲「うたう警官」

mike-cat2006-06-20



〝追うも警官、逃れるも警官。〟
北海道警察を舞台に描く、警察小説の金字塔!〟
制服捜査」に連なる、佐々木譲の警察小説。
組織を揺るがす不祥事で、混乱に陥った北海道警を舞台に、
警察官同士の壮絶な内紛が繰り広げられる、長編だ。


北海道警は、前代未聞の不祥事に揺れていた。
生活安全部のやり手捜査員、郡司警部による、拳銃の大量不法所持と覚醒剤の密売買。
経験も適性も無視した、大胆な配置換えで、道警は〝素人捜査員〟にあふれていた。
そんな折に起こった、婦人警官殺人事件。
被害者は、親も道警に務める婦人警官、水村朝美。
捜査を所轄から横取りした道警本部は、異例の手続きで、
かつての郡司警部の部下、津久井卓巡査部長を指名手配する。
それも、覚醒剤中毒と拳銃所持の疑いがあるとして、発砲許可までつけて…
大通署の刑事一課、佐伯宏一は疑問を覚え、内密で捜査に着手する。
そう、津久井は、腐敗しきった道警の陰謀に巻き込まれていたのだった−


「うたう警官」の〝うたう〟は、証言する、密告するを意味する警察用語。
警察幹部による不正を告発しようとする警官と、
証拠隠滅を図る組織との戦いが、タイムリミット・サスペンス形式で描かれていく。
ここまでけっこう内容について細かく書いてしまったのだが、
こういった〝仕掛け〟に関しては、かなり序盤で詳細に説明される。
だから、「真相はどこに?」的なミステリ要素より、
佐伯や津久井たちがどう警察組織の裏をかいていくか、のサスペンス要素に重きを置く。
驚きのどんでん返しはないものの、なかなかハラハラさせられる小説になっている。


警察組織から〝逃げる側〟のグループにまぎれ込んだスパイの存在もほのめかされ、
その犯人探しも含め、さまざまな駆け引きがドラマを盛り上げていく。
逃げる側の中心人物たる佐伯が、どこまで何を把握しているのか、
の部分がちょっと謎めかして描かれることもあって、そんな微妙な不安要素も面白い。


また、ドラマの重要な要素として見逃せないのが、〝うたう〟という行為の背徳性だ。
組織防衛に対する意識がもっとも強いといわれる警察において、
警察組織を告発、密告することと、腐敗に呑み込まれることはどちらがより罪深いのか。
組織の外に人間には計り知れない、現場警官たちの苦悩が描かれていく。


クライマックスの平坦さが災いして、傑作というにはいまいちもの足りないが、
警察内部の腐敗をまずまず興味深く描いた佳作ではあると思う。
ハードカバーで買ってまで読むのも何だが、文庫でなら必読といってもいいだろう。

Amazon.co.jpうたう警官