乙一「銃とチョコレート (ミステリーランド)」

mike-cat2006-06-08



GOTH―リストカット事件」「ZOO」の乙一最新作。
かつてこどもだったあなたと
少年少女のためのミステリーランド、第10回配本だ。


いままでこのシリーズ、手に取ったことがなかったんだが、
読み始めてびっくり、振り仮名&平仮名だらけ…
そして苦手な大きな活字にもややクラクラしてしまう。
だが、実際に読み始めると、そんなことはノープロブレム。
なるほど、面白い。平仮名がどう、活字がどう、なんてまったく関係ない。
古きよき少年向け小説のスタイルを取りつつ、
乙一らしい悪意をふんだんに含んだ、大人のための冒険活劇、なのである。


富豪たちの秘宝を次々と盗み出す、
怪盗ゴディバが世間を騒がす、とある(ヨーロッパらしきところの)小国。
移民の二世、リンツ少年はある日、怪盗ゴディバの秘密の地図らしきものを手に入れる。
みんなのヒーロー、名探偵ロイズとともに、リンツの冒険が始まる−。


タイトルの通り、チョコレートにあふれた(銃はあふれていないが…)作品だ。
主人公のリンツ君から始まって、父の名前はデメルで、母の名前はメリー、
名探偵のロイズ(北海道銘菓?)、怪盗はゴディバ
友だちはディーンにデルーカ(これはやや違うが…)に、悪ガキのドゥバイヨル、
ほかにもマルコリーニ、レオニダス、ノイハウス、ヴィタメール、ジャンポール(エヴァン)…
かなり渋めのショコラティエまで取り上げ、物語をチョコレート色に染め上げる。


それでいて、人生の不条理が見え隠れするビタースウィートな物語でもある。
戦火を逃れ、隣国から移民してきたデメルさん一家。
デメルさんが肺の病気のため、妻子を残して亡くなってしまったのである。
移民への差別、そして経済的困窮…
かつての少年小説にはごく当然のように織り込まれていた要素だが、
いまの時代に読んでみると、〝古きよき時代〟の非情さがあらためて浮き彫りになる。


キャラクターたちも一筋縄ではいかない。
名探偵ロイズもどこかいかがわしさを放っているし、
ドゥバイヨルもただの悪ガキでは終わらない、不条理で複雑な人物だったりする。
リンツがベタなぐらい、正統派の真っ直ぐ君なだけに、その色合いはよけいに目立つ。


怪盗ゴディバの秘宝をめぐる顛末も、なかなかにひねりが効いていて、
それでいてやりすぎまでにはひねらないので、こちらは素直に楽しめるのがいいところだ。
ウェルメイド、良質、という言葉が素直に出てくる、いい感じの一冊。
凝った作りの製本と、何とも言えない味わいのイラストも含め、
ものの見事に製作サイドの目論みに、気持ちよくはまることができる。
これまであまり注目してこなかった、このミステリーランドだが、
遅ればせながら、ちょっと読み込んでみたいな、とムクムク意欲が湧いてくるのだった。


Amazon.co.jp銃とチョコレート