佐々木譲「制服捜査」

mike-cat2006-06-03



佐々木譲の小説は、一度も読んだことがないのだが、
新聞か何かの書評で見かけてちょっと気になった。
〝これが本物の警察小説だ!〟
〝キャリアも所轄も現場のことなどわかっちゃいない!〟
何か織田裕二関係の映画で聞いたようなセリフだが、
あんな感じの刑事は出てこないので、ご安心を。


警察官人生25年の川久保は、北海道警を揺るがす不祥事のあおりを受け、
札幌豊平署の強行犯係から釧路方面の小さな町、志茂別町の駐在所勤務にされた。
地域の〝掟〟にしばられた、排他的な土地で、地元有力者に翻弄される毎日。
たとえ事件が起こっても、刑事時代のようには、捜査にも加わることもできない。
だが、その中でも川久保は田舎町の腐臭をかぎつけ、その秘密を暴いていく。


5つの事件が微妙に絡み合う、連作シリーズだ。
まずは「逸脱」で、地元有力者とのしがらみにとらわれ、
捜査もままならないジレンマと、自らのふがいなさに落胆したかと思えば、
「遺恨」では、排他的な地元民の情報に迫るべく、奮闘する川久保が、
不祥事による人事配転の影響で、十分機能しない〝所轄〟に悩まされる。
「割れガラス」では、前科者を〝最初に割られたガラス〟に例え、
陰湿に排除しようとする地元との軋轢に苦しみ、
「感知器」では、連続放火の影に隠された、地元と所轄の因縁の板挟みとなる。
「仮装祭」では、地元民と別荘族の対立、
そして13年前の未解決の事件に隠された、町の暗い秘密が川久保にのしかかる。


というわけで、全編にわたって流れるのは、田舎町の警官の苦悩、である。
それも、かつては第一線の刑事だった川久保が、
地域エゴまるだしの町民たちに利用され、疎まれていく過程が何とも歯がゆい。
だからといって「勝手にしろ」と投げ出すわけにはいかない、
警官ならではの苦悩が、なかなか味わい深い1冊なのである。


このいわゆるエゴ丸出しの田舎町、という設定は、
実際田舎町に住む人からは「偏見」ととられそうだが、
犯罪ゼロの町を作るために、犯罪を〝なかったことにする〟地域性など、
読む者にとってはやはり「さもありなん…」な世界だったりする。
中でも、地域最大の悪である〝有力者〟の俗物ぶりは、もういかにも、なのである。
そういう意味では、ちょっとステレオタイプ的な部分もあるのだが、
中途半端に都会=冷たい、田舎=温かい的な、やり口よりは遙かにリアルだ。


そして実際、川久保がバンバンと事件を解決するわけでもない。
どこか苦い味を残した結末が、つねにつきまとう。
無力感、焦燥感、そして諦念…
単なる一警察官、単なる一〝駐在さん〟の悲哀が、何とも胸に迫る。


これをもってオビの〝これが本物の警察小説だ!〟が、
表現として正確かどうかはともかくとして、
なかなかに読ませる作品であることには間違いない。
佐々木譲、ちょっとこれから読み込んでみたい作家のようだ。
まずは「うたう警官」も読まなければ、ということで、
うれしい収穫にほくそ笑む、そんな一日だった。

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