豊島ミホ「陽の子雨の子」

mike-cat2006-05-23



豊島ミホ、温存していた新刊2冊のうちの1冊。
〝市立の男子中学に通う夕陽、
 二十四にしては幼く見える雪枝、
 十五で雪枝に拾われて四年になる聡。
 思いがけない夏が、いま始まる〟


〝僕〟、夕陽は十四で、何の不幸もない。
すごく楽しい、ということでもないけれど、世界に失望するにはほど遠い状態にある。
〝俺〟、聡は十五で雪枝に拾われた。
横暴な父に意気消沈させられた、母の怯えた目が〝俺〟にまで向けられたから…
夕陽が訪れたすこし幼いおねえさん、雪枝の家にいたのは、
後ろ手を縛られ、押し入れに閉じ込められた、聡だった−


というわけで、ふたりの少年と、ひとりの女性をめぐる不思議な物語。
成長物語でもあり、青春&恋愛ものでもあり、でもどこかエロティックなお話だ。
ひとつのモチーフとなるのは〝僕〟が取り憑かれている不安。
〝誰にも打ち明けたことがないのだけれど、僕は雨が怖い。
 いや、雨そのものは、ただの水だから怖くも何ともないはずだ。
 僕が怖いのは、雨の日。雨の降っている世界が怖いのだ。〟
そのイメージは、雨を絵に描く時の、灰色の点々、である。


だが、〝僕〟は一方で、その不安に引き寄せられる。
灰色の点々に満ちた、雪枝の家。
その〝向こう側〟の世界を、恐れながらも魅せられていく夕陽。
一方、〝向こう側〟では、聡が雪枝に飽きられようとしている。
「聡、大きくなりすぎたよ」
雪枝、そして聡も不安を抱え込み、揺れる心を持て余している。


この小説の味としてはその、
青春期ならではの不透明感であるとか、不安感、といったところか。
ただ、あの傑作「檸檬のころ」ほど、ギュッと胸を締めつけられるような感触ではない。
比較的淡泊で、さらっとした味わい、という気がする。
もちろん、若い女性が少年を〝飼育〟する、という設定は刺激的なのだが、
(こちらが期待しているほど)ポルノグラフィック的な描写は、ない。(残念…)


ただ、その設定から想像できる世界は、なかなか面白い。
もちろん、〝少女飼育〟という身勝手な事件はまったくの別問題。
15歳前後の男の子が、20過ぎの女の人(美形)に飼われるのと、
むさ苦しい中年男が、少女を飼うのでは、飼われる側の意識があまりにも違う。
何せ「きれいなおネエさんは好きですか?」の世界なのだ。
飼ってほしい! という願望を100%否定できる15歳男子がどれだけいるだろうか。


実際、この物語の夕陽くんだって、端的に言えば「ヤレるかも」がきっかけだ。
だから、相手がかわいい女性とはいえ、ふらふらとついていく。
下半身で生きている15歳男子は、程度の多少すらあれ、まあそんなものだ。
だから、実際の描写が抑えめでも、この小説は立派なポルノたりえる部分があるのだ。
こうした部分も含め、この小説はなかなか不思議な1冊ともいえる。


面白かったか? というと、あまり僕にはピンとはこなかった。
いままでの豊島ミホ作品の中では、一番印象が薄いかもしれない。
だが、もっと腰をすえて読み込んだ場合、
もしかしたらもっともっと深い味わいも、あるのかもしれない。
とりあえずは、この作品は上手に読むことができなかった、というのが率直な感想。
また、年月が経ってから読んだら、何かがわかるかも知れないし、
もっと若い頃に読んでいなかったら、わからなかったのかも知れない。
そこらへんは、やはり小説って出逢いのものなんだなぁ、
と、無理矢理な結論でまとめてしまうことにする。

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