梅田ブルク7で「ジャケット」

mike-cat2006-05-24



スティーヴン・ソダーバーグ×ジョージ・クルーニー
設立したプロダクション、セクションエイトの製作作品。
現実と妄想、過去と未来が入り交じる、サスペンス・スリラーだ。


主演には戦場の〝ボルゾイ犬〟こと
エイドリアン・ブロディ(「戦場のピアニスト」)、
共演にキーラ・ナイトレイ(「パイレーツ・オブ・カリビアン」)、
ジェニファー・ジェイソン・リー(「イグジステンズ」「黙秘」)、
そして、新007のダニエル・クレイグ(「ミュンヘン」)
という、なかなか旬なキャストたちを揃えた。
予告では拘束衣<ジャケット>にくるまれたブロディが、
死体置き場の引き出しに閉じ込められる、衝撃映像が印象的だった。


クリスマスを目前に控えた1992年のヴァーモント。
湾岸戦争で頭部に瀕死の重傷を負った海兵隊員、ジャック・スタークスは、故郷に戻る。
極寒のある日、ヒッチハイクをしたジャックは、殺人事件に巻き込まれ、再び重傷を負う。
目覚めたジャックに着せられていたのは、まったく記憶のない殺人の容疑。
心神喪失アルパイン・グローヴ精神病院に送致されたジャックは、
強烈な抗精神薬を投入され、拘束衣にくるまれ、死体置き場の引き出しに閉じ込められる。
強烈なフラッシュバックに苦しんだジャックは、気付くと2007年の世界にいたのだった。
そこで聞かされた、衝撃の事実。「ジャックは1993年1月1日に死んだ」
現実と妄想、過去と未来を行き来しながら、ジャックは〝死の真相〟に迫っていく−。


ちなみにここからややネタバレなので、ご注意を。
予告だけ観た限りで思い出すのは、
エイドリアン・ライン監督、ティム・ロビンス主演で、
非現実感、そして妄想に悩まされるヴェトナム帰還兵を描いた「ジェイコブス・ラダー」だろう。
あの不条理な物語の、あのオチ、あれの系統かな、と思いつつ観ていたわけだ。
しかし、物語は意外というか、何というか、観た通り〝そのまんま〟の展開で進む。


序盤からサブリミナル映像を濫用し、不快感たっぷりのビジュアルで攻めるのに、
この映画、最後はかなり〝いい話〟に仕上がってしまっているのだ。
承知していれば、そんなものかな、みたいな話だが、
「ジェイコブス〜」的なビジュアルで、ミスリードされた僕的には、多少の違和感が残る。
だから、フィルムが焼き焦げるように消えていくラスト、
そして被せられる「あとどれくらい時間があるの?」の〝ハッピーエンド〟にも、
もしかすると実はこれすらも妄想? と、うがった見方をしてしまったのだ。


ただ、素直に観れば、まあ悪くない感じの〝そういう系統の〟サスペンスか。
ジャック=ブロディのうろたえつつも、時折見せる強い意志にあふれた表情や、
2007年の世界でジャックと出逢うジャッキー=ナイトレイのハスっぽさもいい感じだ。
精神病院の患者、ルーディー=クレイグの青い目に潜む狂気も、これまた雰囲気たっぷりだし、
ジャックをかばう医師、ローレンソン=ジェニファー・ジェイソン・リーも、存在感を示している。
そうそう、最近ろくな役がないブラッド・レンフロも、ろくでもない奴役で登場する。


監督のジョン・メイブリーは、英国のインディペンデント系監督。
過去の作品は観たことがなかったが、ソダーバーグのご指名、らしい。
パンフレットを読むと、最初はコリン・ファレル主演、
アントワーン・フークア(「トレーニング・デイ」)監督による大作だったらしい。
それが低予算の〝ちょっと気の利いた映画〟に変更され、声がかかったとか。
それでも、主演にはマーク・ウォルバーグを考えていたというから、
またそれはそれで、全然違う映画になっていたことだろうな、と想像はふくらむ。


必見とかいう言葉を使うつもりはない。
あまり期待をふくらませていくと、細かいアラもいろいろと見えてくるはずだ。
だが、カジュアルに観る分には(こればっかり言ってるが…)、この映画はなかなか悪くない。
興味がある方には、ナイトレイのお胸(貧)も拝めるし、お得感はあるはずだ。
ちなみに僕はこのナイトレイ、どうしてもあのしゃくれが気になってダメなんだが…
まあとりあえず、拘束衣を着せられ、暗所閉所に閉じ込められる恐怖感、
というアイデアだけでも、サスペンス・スリラーとしてはもう、ツカミはOKという感じだろう。
ブロディの顔を観てるだけでも笑ってしまう、とか、
暗所閉所を想像するだけで卒倒してしまう、とかいう人以外なら、観て損はないはずなのだ。