ジェフリー・ディーヴァー「クリスマス・プレゼント (文春文庫)」

mike-cat2006-05-16



冬場に話題になったディーヴァー初の短編集。
「クリスマス〜」と銘打った本をこの時期に読むのもどうかと思うが、
何となくタイミングを逃したまま、読み逃すのもイヤなんで、
まあいいや、と読み始めることにしてみた。


原題は〝Twisted〟
さすが、どんでん返しをウリにするディヴァーだけあって、
短編も〝どんでん返し16連発〟と、ズバッと切り込んでくる。
魔術師 (イリュージョニスト)」に続く(!?)リンカーン・ライム・シリーズの短編も入った、おトクな16編だ。
〝ディーヴァー・マジック炸裂のミステリ作品集
 世の中のものごとは、見た目どおりとは限らない〟
巧妙なミスリードから、アッと驚く結末を導く、その手法には、
どんでん返しがある、とわかっていても思わず唸らせられる作品も少なくない。
冒頭の「ジョナサンがいない」から、本当に16連発でたたみかけてくる。


印象的だったのは、まず「サービス料として」だろうか。
NY、パーク・アベニューのセラピスト、バーンスタイン医師のもとに、
夫が父の幽霊を装い、わたしをおかしくさせようとしている、と訴える女性が訪れる。
なかなか効果の出ないセッションを重ねた結果、医師は思い切った手段に出る−


「ビューティフル」は、完璧な美貌に悩むキャリーの物語。
その美貌ゆえに、不幸な人生を歩んできたキャリーは、ついにはストーカーに目をつけられる。
「神なんか信じていないわ」。こう言い放つ理由がなかなかすごい。
「もし神が存在するなら、わたしを美しく創るような残酷な真似はしなかったはずだと言いたいの」
聞いているだけで、ストーカーでもしてこらしめてやろうか(笑)、と…。いや、しないけど。


「被包含犯罪」は、上質の法廷スリラーを思わせる一編だ。
巧妙な買収で、無罪に持ち込もうとする犯罪組織のボスに対し、検事はどう戦いを挑むのか。
ほんのささいな取っ掛かりが、勝訴への大きなカギとなってくるところがなかなかにくい。


そして、リンカーン・ライムが登場する表題作「クリスマス・プレゼント」。
相も変わらずの、ライムの毒舌と、抜群のひねりが効いた展開でシリーズの醍醐味を味わえる。
まあ、やっぱり短いより長い方がもっといいよな…、なんて思うのも確かではあるが。


そして「パインクリークの未亡人」は、南部ジョージアが舞台。
〝南部の女は、夫よりも一つ強くなければならない。
 夫よりも一つ機知に富んでいなければならない。
 それから、これはほかの人には内緒だけれど〜〟
母親から、こう教えられて育ったサンドラが、愛する夫の死後、どう生きていくか。
わかっていても、思わずニヤリとするようなひねりと、南部の雰囲気を感じさせる描写がとてもいい。


そんなこんなで、満足度かなり〝高〟の16編。
ディーヴァーが、短編の名手でもあった、といううれしいサプライズも含め、見逃せない一冊。
これまで半年放っておきながら、いまさらそんなことを思ったのだった。

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