瀬尾まいこ「強運の持ち主」

mike-cat2006-05-12



優しい音楽」以来、1年ぶりの最新作。
〝元OLの占い師、ルイーズ吉田は大忙し!
 「がんばって。きっといいことがあるわ」
 読んだら元気の出る、待望の新作〟
「占い」&「元気が出る」のフレーズに、やや引っかかりを感じるが、
そこは瀬尾まいこ、大丈夫なはず、と信じて読み始める。


事務用品会社で営業をしていた吉田幸子。
上司との折り合いが悪く、会社を辞めた幸子が見つけた仕事は〝占い師〟。
ショッピングセンターの片隅で、20分3000円の占い師稼業。
恋人は、占いによると、かつてない強運の持ち主、のはずの通彦。
きょうも「ルイーズ吉田」のもとには、ちょっと変わったお客が訪れる−。


占い、というのはある意味神様と一緒で、気持ちの持ちようひとつと思っている。
信じることでこころの救いを得たり、自分の気持ちを後押しさせたり…
頼り切りで超科学的な部分に溺れるのではなく、いい意味で利用するものだ、と。
だから、細×数×系の占い師本位のいかげんな決めつけなんかを見ると、
不快指数は限りなくヒートアップしていく方なんだが、この「ルイーズ吉田」はちと違う。


占いをやるに当たっての投資は、姓名判断と四柱推命の本、2冊で計2400円。
せっせと本に書かれていることを、相手に読んで聞かせる。
これだけなら、本を買って読んだ方が、よっぽど安くつく。
だが、師匠のジュリエ青柳はこう、言い聞かせる。
「三千円の価値をどうつけるかはあなたしだいよ。
 大事なのは正しく占うことじゃなくて、相手の背中を押すことだから」


初めはただ、本に従って占うだけだったルイーズは、
やがて相手を見て、直感と営業で鍛えた話術で〝占う〟ようになる。
つまり、占いという形式を取った、簡易カウンセリングと割り切ったサービスだ。
この部分を割り切ってやっている〝占い師〟は信用できる。
ひとはみな、聞きたいことを聞きたがり、言って欲しいことを言って欲しがる。
そのひと言を言ってもらうのに20分3000円なら、安いものだろう。
そんなわけで、そうしたスタンスが冒頭の「ニベア」で説明される。
占い師「ルイーズ吉田」への不安感が払拭されることで、安心して読み進めることができるのだ。


ニベア」では、買い物を頼まれた小学4年生、堅二が相談に訪れる。
テーマは「サトヤとスーパー丸栄、どちらで買い物すべきか?」。
機転を利かせて、この不思議な質問に応えたルイーズに、もう一度難問が突きつけられる。
「ファミリーセンター」は、〝ある人〟の気を引きたい女子高生、まゆみが相談相手。
この〝ある人〟がどうにも鈍感というか何というか…、というお話だ。


「おしまい予言」では、〝おしまい〟が見えてしまう能力の持ち主、武田君が現れる。
助手として働くことになった武田君の能力と、
ルイーズの占いが合わさった時、何かが−、なんていうお話。
「強運の持ち主」になると、ルイーズはついに弟子を取ることになる。
どうにも要領を得ない正直者、竹子さんとの交流が、ルイーズの占いにも変化を与える。


そして、この4編の物語の横軸となるのが、
例の〝強運の持ち主〟通彦と、ルイーズこと幸子の恋愛模様だ。
占いの結果とは全然違い、どうにもパッとしない通彦に、
どこか戸惑いを感じつつも、気持ちを深めていく幸子の姿がなかなか微笑ましい。


全般的には、とても淡い味わいの連作集。
以前の作品と比べても、だいぶクセは少ない感じだ。
だが、瀬尾まいこらしいサラッとした読み味、というか何というか、
「元気が出る」かどうかはともかく、心地よく読めることは間違いない。
いわゆる「OL向けちょっといい話」的な部分はより強くはなっている。
この路線で3作、4作続けられると、ちょっときついが、たまにはこんなのも悪くない。

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