ジェイムズ・カルロス・ブレイク「荒ぶる血 (文春文庫)」

mike-cat2006-05-11



無頼の掟 (文春文庫)」のブレイク、邦訳第2弾。
本の雑誌」最新号を始め、各書評で評判の一冊だ。
オビには〝最新作〟とあるが、解説によると、
2003年の原題〝Under the Skin〟だそうだから、
本当は最新作から数えて2作前、ということになる。


まあ、そんなことはともかくとして、オビはこんな感じ。
〝ジミー・ヤングブラッド、殺し屋。愛と義のために死地へ。
 雄々しくリリカル。劇場と慟哭の傑作犯罪小説。〟
わかったような、わからないような…
しかし、読んでみると、実際その感覚の通り、な気がしてくる。
つまり、ノワールといえばノワールなのだが、
それだけではない、何とも説明しがたい魅力にあふれた小説なのだ。


舞台はメキシコ湾沿いのテキサス州ガルヴェストン。
別名〝ローズの亡霊〟ジミー・ヤングブラッドは、
地元の大立者、サムとローズのマセオ兄弟の用心棒にして右腕だ。
その人生は、メキシコ革命に謎の娼婦、暴力と激情と数奇な運命に彩られている。
そして、ジミーの前に現れたひとりの女、そして宿命の男。
運命の悪戯は、彼らを激しい荒波へと放り出す−。


やっぱり書いていてもよくわからないんだが、
まあ欲望と暴力と復讐と宿命のてんこもり、と思ってもらえばいい。
ガルヴェストン自由国、とも言われるメキシコ国境近く。
砂ぼこりと血にまみれた、Tex−Mexテイストそのまんまの世界がそこに広がる。
絶妙の猥雑感、といったらいいのだろうか。
売春宿にカジノ、汚職まみれの警官、そしてギャング…
目を覆うような暴力が醸し出す、独特の〝爽快感〟がクセになる。


エル・マタドール<殺人者>、エル・セニョール・ムエルテ<死の紳士>、
マノス・デ・サングレ<血塗られた手>、エル・カルニセロ<肉食獣>…
数々の異名を持つロドルフォ・フィエロを父に持ち、<幽霊>と言われた娼婦を母に持つ。
そんなジミーのまさしく〝荒ぶる血〟が巻き起こす事件は、
最初から最後まで全開フルスロットルで、テキサスの荒れ地をカッ飛ばしていく。
そして、〝おれ〟ジミーの一人語りの中に時折はさまれる短いエピソード。
そのエピソードと、〝おれ〟の周りで巻き起こる事件が絡む時、物語はクライマックスを迎える。


既成の枠に収まりきらないような結末は、「無頼の掟」同様だ。
虚しさと哀しみに満ちた、それでいてどこかカラッと乾いた感覚が心地よい。
だいぶ〝野郎指数〟が高く、女性は添え物感が強い気はするが、
まあこういう〝パルプ・フィクション〟系小説は、そんなものだろう。
あくまで物語、ということで、一応棚上げにしておかないと、きりがなくなってしまう。


結局これだけ書いても、どういう話なのか、やっぱりわからないんだが、
まあ一気読みは確実のパワーにあふれた小説であることは間違いない。
スペイン語のカナまみれの導入部さえ通過すれば、
あとはもうページをめくる手が止まらなくなること、請け合いだ。
ジェイムズ・カルロス・ブレイク、未訳作品の刊行が待ち遠しい、〝旬〟の作家である。

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