戸梶圭太「ちぇりあい―ちぇりーぼーいあいでんてぃてぃ」

mike-cat2006-03-10



〝究極の若返り薬をめぐり、
 アキバ系オタク童貞たちを襲う天国と地獄…
 戸梶圭太が全国の童貞(素人童貞含む)
 に鉄槌を下す、残酷ファンタジー


この本、書店のレジに持っていくのが、かなり恥ずかしい。
表紙はご覧の通り、ネコ耳のアニメ系メイド美少女だったりする。
その上、オビにはこんなことが書いてある。
〝ふつつかなメイドですが、一生懸命にご奉仕させていただきます!〟
あの不愉快極まりない「電車男」ブームに、
韓国にまで進出したというメイド・カフェの大繁盛ぶり…
中身を知らない人が見たら、僕まで隠れオタクと思われてしまうじゃないか!
裏面に〝んなわけねーだろ、この醜いブタがぁ!〟と書いてあっても、
そこまで見ている人なんて、たぶんいないのである…


東京駿河医科大のひきこもり教授、亀山田曽根吉が、世紀の発見をもたらした。
それは万人の夢でもある、究極の若返り薬。
ところが、それが抽出されるのは、18歳以上の童貞の脳細胞からだった。
巨大な利益を狙った薬品会社による童貞争奪戦、
膨大な報酬をバックにした、新たな富裕層「ドーテイ」の出現…
騒動は日本だけでなく、世界、そして宇宙にまで飛び出していく−。


童貞が産出する若返りのエキス、
カメヤマダジトロエキシニン(もしくはナルタキ〜)の抽出作業のすさまじさに始まり、
企業間の童貞争奪戦がもたらすとんでもない妨害作戦の数々、
「ドーテイ」がもてはやされるパラダイムの大変化とさまざまな騒動、
果てはとんでもない連中まで騒動に参入し、最後は
ポール・ヴァーホーヴェンのカルト映画「スターシップ・トゥルーパーズ」さながらの世界へ。
その暴走ぶりといったら、まさしく戸梶圭太らしい、とんでもない暴走ぶりだ。
残虐描写や、反社会的内容について取り上げていったら、もう数え切れない。
これをあくまで小説の中のスラップスティック、と割り切って読めない人には、
とてもじゃないが、お勧めできないのだが、割り切れる人にはもう、最高だ。


戸梶圭太一流の疾走感に加え、ディテイルの面白さも光っている。
たとえば、童貞判別に使われる童貞スペクトルであったり、
童貞でありながら、どう〝萌え〟の感情を処理するのか、であったり、
童貞集めに中野ブロードウェイのあの店らしきものが使われたり…
どれもこれも、とんでもないのは確かなのだが、思わず笑ってしまう。


登場人物も、相も変わらずバカ総登場、という感じで、
こちらも相も変わらずの戸梶圭太のテイストが効きまくっている。
今回特に光っているのは、虐められキャラだ。
栗林という名の助教授なのだが、もうこれもひたすら苦笑するしかない小動物系。
これの末期はまあ、いかにも戸梶圭太らしいものではあるのだが、これも笑うしかない。


物語そのものはまあ、破綻しているといわれても仕方ない。
大暴走の末のトンデモファンタジーで、後味の悪さといったらもう…、だ。
しかし、その破綻やトンデモぶり、後味の悪さも含めて、
まあ戸梶圭太のテイストというか、魅力といえるというのも確か。
悪趣味全開、を承知の上であえて、面白い一冊、と言いたい。
本当に、並の悪趣味ではないことを、もちろん言い添えた上でだが…

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