筒井康隆「銀齢の果て」

mike-cat2006-02-20



筒井康隆。ものすごい久しぶりに読む気がする。
最後に読んだのはたぶん中学生の時だと思う。
中でも好きだったのは、奇人変人フリークス大集合の「俗物図鑑 (新潮文庫)」。
いまだとヘタしたら出版できないくらい悪趣味全開の一冊だった。
で、いまその悪趣味全開の筒井康隆に再び出会ってしまった。
「銀齢の果て」、それは老人版「バトル・ロワイアル」。
70歳以上の老人たちによる、血みどろの死闘を描いたバイオレンス姥捨山だ。


ひとりの若者が平均7人の老人を養う、老齢社会。
年金打ち切り、介護制度の廃止、
爆発的に増大した老人人口を〝調節〟するため、厚生労働省は究極の策を打ち出した。
その名も「老人相互処刑制度」
地区ごとの老人たちにお互いを殺させ、生き残った者だけが生存権を得る。
生き残りは以後、バトルを免除されるばかりか、ほかの地区のバトルにも参加できる特典付。
もし、期日以内に複数の老人が生き残れば、
厚生労働省直轄の中央人口調節機構、CJCKがその地区の老人を皆殺しにする。
壮絶な爺婆バトルが、いま始まる−。


読む方も読む方だが、書く方も書く方だ。
この小説を書くため、筒井康隆は自らが70代になるのを待ったということだが、
しかしそれにしても、悪趣味にもほどがある。
あんまり悪趣味すぎて、読みたくなるじゃないか…
おなじみ山藤章二のイラストに加え、
山下洋輔作曲による「葬いのボサ・ノバ」なんてのも悪趣味度をさらにもり立てていて、
憤りとか何とかを通り越え、どうにも不謹慎な笑いを浮かべるしかなくなる。


おもな舞台となるのは、昔ながらの商店街がいまも残る宮脇町。
老舗の和菓子店、蔦屋の隠居、宇谷九一郎が主人公、となる。
マッドサイエンティストに元自衛官、元ミゼットプロレスのレスラー、
変態神父に捕鯨船のもり撃ち、元女優とその運転手…
なぜかひと味違う連中ばかりのこの町内でのバトルが、話の軸となる。
葛藤に悩みつつだったり、あっさりとやってみたり、
策略を張りめぐらしてみたり、短絡的に処刑めぐりをしてみたり…
その凄惨にして、洒落のきついバトルもさることながら、
こまごまとした描写もこれまた面白い(不謹慎…)。


まずは拳銃だの、自動小銃だの、なんてあたりは高騰の一途をたどる。
もう暴力団の資金源としては、最高だ。
相場としてはワルサーが一丁1000万以上、自動小銃ならその倍…
それでも、政府筋は別に気にもしないらしい。
まずは老人減らしが緊急課題。そのためには、ということなのだろう。
大阪は西成あたりになると、関西人としての性質がある趣向に結びつく。
カネ取って見せモンにして生き残ったモンがもらおか、
ってなわけで、こんなものまで商売にしてしまう、関西人気質が…
って筒井康隆、こんなの書いて本当に大丈夫なのか?


まあ、そんなわけで、ヤバイ限りの描写が、果てどなく続いていく。
微妙な表現や、文章感覚の微妙な古さに、過去の作家だなと思わせる部分もあるが、
ストーリー自体はやっぱりすごい。やたら圧倒的で、(不謹慎だが)何だか面白い。
ただ、このテの発想で大事になるのは、オチである。
オチが悪いと、こういう小説は後味が悪いままで終わる。
ちなみに「俗物図鑑」の変人タレント集団は、ほぼ想像通りながらも凄絶なラストを迎えた。
この「銀齢の果て」では、やや微妙なオチというか、ラストが用意される。
一抹の哀切なんかも匂わされてしまって、
そこまで悪趣味に笑っていた気持ちが一気に醒めてしまう感覚も否めない。
まあ、そのまんま悪趣味全開フルスロットルで突っ走るのもどうか、というトコなのだろう。


全般的には、問題作か傑作か、と言われると、問題作の比重がだいぶ強い。
もちろん、エンタテイメントとして楽しめる部分も大きいが、
これを楽しいと言い切ってしまうと、だいぶ自分の人間性というものが危うくなる。
あくまでブラックジョークとして割り切ればいいのだが、
現実に老齢化社会が立ちはだかっている以上、そうは割り切れない。
散々苦笑いを浮かべて読んでいたくせに、最後は後味の悪さを感じて、本を閉じた。
まあとりあえず、筒井康隆健在、ということで強引にまとめておく。
しかし、これはさすがに映画化されないだろうな…
されたらホントにすごいんだが、それはそれで誰も見ないだろうしな…

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