畠中恵「アコギなのかリッパなのか」

mike-cat2006-01-16



しゃばけ しゃばけシリーズ 1 (新潮文庫)」シリーズの畠中恵最新作。
佐倉聖は引退したばかりの大物政治家・大堂剛の事務所で働く21歳。
かつてはグレていた時期もあったが、
いまは腹違いの弟を養うため、大学に通いつつ、仕事をこなす毎日だ。
目下の悩みは、大堂門下の政治家たちから持ち込まれる騒動の数々。
くるくると模様を替える猫だったり、後援会の内部争いだったり…
ブツブツ言いながらも、聖は持ち前の機転で、難題を解決していく−。


ジャンル的には、いわゆる日常ミステリとなる。
そして味つけが、政治家秘書。
いちおう肩書は事務員だが、やってることはそのまま秘書だ。
それもトラブル&陳情処理専門、という感じ。
設定的には、なかなかそそるものになっている。


だが、その割にこの作品、味つけがどうにも薄すぎる。
もちろん日常ミステリ、というのは他愛がないレベルの問題解決がメインではあるのだが、
あまりにも他愛がなさ過ぎるし、問題解決がイージー過ぎる。
トリックみたいなものを説明されても、感心するでもなく、
「あっ、そう」という感じでさらっと読み流しておしまい。
もちろん「しゃばけ」シリーズだって、
ミステリ的な視点からみれば、薄味この上ないのだが、
あれには病弱な若ダンナと妖怪たち、という独特の味つけがある。


しかし、この作品は全体に漂うテイストそのものが味気ないのだ。
政治に対する、一般的な?ドロドロ?のイメージに固執するつもりもないが、
この作品で描かれる政治の世界は、どうも単純明快に過ぎる。
大堂を始めとする政治家連中が、
巧妙に聖の周囲を固め、操り人形のように動かしていく様子などは、
なるほど政治家っぽい感じはするのだが、それ以上がない。
いわゆる汚い話ばかりでも困るが、そういう部分がまるでないのも考えものだ。
汚い部分も含めつつ、政治の世界を魅力的に描くならともかく、
ただ絵空事の世界だけ切り取って政治の世界を美化するのでは、
わざわざ政治の世界を舞台にする必要がどこにあるのか、よくわからない。


というわけで、畠中恵の軽妙な語り口もあって、さらっと読ませはするのだが、
読めば読むほど物足りなさは募るばかり、というまことに困った連作集なのだ。
さらっと読ませるだけなら、もっとそれに向いた題材というのはあるはずだ。
政治を題材にするなら、もうひとひねりが欲しいし、
この?さらっと?感にこだわるなら、ほかの題材を選ぶべきだろう。
どうも作者が?流している?感がどこか感じられるだけに、
ついつい辛口になってしまったのだが、それも期待の反動、ということ。
しゃばけ」シリーズだけの人(未読の作品で傑作があったら素直にすみませんなのだけど)
に終わって欲しくないな…、と強く思うのだった。