米澤穂信「氷菓 (角川文庫)」

mike-cat2006-01-14



先日の「犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)」があまり肌に合わず、
「どうもなあ、何だかなあ」なんて思っていたら、id:seiitiさんから、
「1作で米澤穂信から遠ざかるのはもったいない」とのアドバイス
まずは古典部シリーズの「氷菓」から、とのお勧めに従い、読んでみる。


神山高校に進学したばかりの折木奉太郎は、
世界を放浪する姉の勧めで、伝統ある古典部への入部を決める。
存続の危機にあったはずの古典部だが、ほかにも入部者がいた。
地域の名家出身という黒髪の美少女、千反田える
手芸部も掛け持ちの人間データベース、福部里志
奉太郎の幼馴染みで、毒舌の可愛い系少女、伊原摩耶花
4人は「古典部って何?」の疑問を抱きながらも、文化祭の準備にとりかかる。
古典部の文集のタイトルは「氷菓」。
だが、部室にはそのバックナンバーすら見つからない。
文集はどこに、そしてそのタイトルに秘められた、33年前の謎とは−。


平たくいうと、青春+日常ミステリの分類だろうか。
角川スニーカー文庫(見つけるの、苦労したよ…)収録ということで、
ライトノベルにも微妙にカテゴライズされるのかもしれないが、
ライトノベル自体にあまり造詣が深くないので、詳しいことは知らない。
ただ、高校一年生にしては大時代的、というか、
大袈裟な話しぶりは、何となくそれっぽい雰囲気を感じさせる。
ただ、高校の文科系クラブってこんなムードなのかも、とは思う。
高校時代はホッケー部&雀荘通いの毎日だったもので、こういう世界は、
ゆうきまさみの「究極超人あ〜る」ぐらいでしかお目にかかることがなかったのだ。


そして、何よりもこの小説の味わいは、その雰囲気、にあると思う。
学校という限定空間、そしてその価値観のみがすべてを左右する世界。
その中でのドラマは、青春ものならではのさわやかさと濃厚さを併せ持っている。
奉太郎を始め、登場人物もいわゆる〝キャラが立っている〟ため、
なるほど、「古典部シリーズ」として続いている理由がよく分かる。


〝高校時代は薔薇色、薔薇色といえば高校生活、と形容の呼応関係は成立している〟
と語り始めておきながら、自らは
〝勉学にもスポーツにも色恋沙汰にも、
 とにかくありとあらゆる活力に興味を示さず灰色を好む人間〟に分類されてしまう奉太郎。
活力を嫌っているわけでもないが、それを面倒に思い、浪費と感じる。
そんな奉太郎が、古典部の活動、というエネルギーの浪費の中に身を置き、
ほんのわずかながら変化していく様は、何となく微笑ましい。


謎解きそのもの、に関しては、かなり淡泊な印象だ。
ただ、これに関しては日常ミステリ自体がそういうものなので、格別違和感もない。
文集のバックナンバーのありかなど、小さな日常の謎を解きつつ、
大きなテーマである「氷菓」の秘密に迫っていく構成は、なかなかだ。
トリックや、その秘密の真相に過剰な期待さえしなければ、
読み物として十分楽しめるレベルにあるんではないかと思う。


ヒロイン(でいいと思うが…)千反田えると、奉太郎の関係も含め、
さまざまな〝これから〟が気になるシリーズだ。
まずは、米澤穂信に1作でおさらばしなくてよかった、との安堵を胸に、
そしてシリーズ第2作「愚者のエンドロール (角川文庫)」に手を伸ばすのだった。