高瀬ちひろ「踊るナマズ」

mike-cat2006-01-11



第29回すばる文学賞受賞作だ。
オビは〝エロティックな伝説と、
 幼い2人の恋心がクロスする新感覚の恋愛奇談〟
受賞作の「踊るナマズ」と「上海テレイド」の中編2作。
何となくそそられて手に取ったが、本の厚さの割には意外に手のかかる一冊だ。


「踊るナマズ」は、
ナマズにまつわる伝説が伝わる田多間町に住む〝私〟が、
生まれくるお腹の子どもに向かって話す、民間伝承と自らの体験談。
人間の嫁をよこせと暴れる大ナマズが、高僧に退治された、
という伝説を持つこの町では、「ナマズ雨」が降るという。
〝灰色がかった白い地平に、点から降り続く激しい雨。
 びしゃびしゃと叩きつけられた小さなナマズ達が勢いよく跳ね、
 濁った水溜まりに消えていく。私の生まれ育った町では、
 辺りが煙るくらい土砂降りの雨は、「ナマズ雨」と呼ばれている〟
それどころか、〝私〟のおばの小夜子さんは、
実際にナマズが降ってくる姿が見えてしまう、という特殊能力の持ち主だ。


中学生のころの〝私〟は、自由研究のテーマとして、ナマズ伝説を追う。
同級生の一真とともに訪れた鯰マニアの元司書から聞かされた伝説は、
巷に伝わる伝説とは違い、とてもエロティックな猥談でもあった。
まだ、男女の交わりを現実のものとしてとらえられなかった〝私〟だが、
元司書の語る伝説が進むに連れ、次第にこころ惹かれていく−。


物語では、画家である小夜子さんが絵のモチーフとして選んだ、
瓢箪とナマズによる鯰鮎図(ひょうねんず、これでナマズを意味するらしい)とともに、
〝得体の知れないテーマ〟に興味を引かれていく〝私〟の様子が描かれる。
エロティックといっても、直接的な描写は猥談めいた伝説が中心で、
〝私〟に関わる部分は、おもにセクシャルな意識の〝覚醒〟がほとんどだ。
読む前に抱いていた下心めいた関心は、裏切られる。
それぞれの描写は、なかなか面白い角度から書き起こされる。
詳細なリサーチもなされているようで、ちょっとした鯰トリビアも多い。
それらは確かになかなか読ませる気もするのだが、
瓢鮎図の話がどう関係づけられるのか、よくつながりがわからない部分も多い。
子宮と瓢箪、ナマズと子どもの対比も、納得できるようでできない。
つかみどころのない小説だな、という率直な感想だ。


兄弟の禁断の愛、を描いた「上海テレイド」もそれは同様。
わかるような、わからんような…
越えてはならないはずの一線を越えてしまった、由利さんから、
打ち明け話を聞かされる〝私〟の心情も未整理(に感じられる)のまま挿入され、
読む側としては、感情がとっ散らかったまま、放り出されるような感覚になった。


そんなわけで、結局僕の読解力のレベルの問題だとは思うのだが、
最後まで乗れないまま、本を閉じることとなる。
すばる文学賞受賞作、か。
選考委員は僕にはわからない〝何か〟を読み取ったのだろう。
感じ方はひとそれぞれ、とは思うのだが、
そういう風にいろいろと〝読み取れる〟能力を、
いまさらながら身につけたいな、と思う今日この頃なのだった。