米澤穂信「犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)」

mike-cat2006-01-07



このミステリーがすごい!」の2005年版国内8位。
クドリャフカの順番―「十文字」事件」と併せ、
以前から気になっていたこともあり、まずは読んでみることにした。
オビは
〝振り返らず。来た道から逸れないように。
 犬捜し専門(希望)、25歳の私立探偵、最初の事件〟
ひとことでいえば、青春ハードボイルド・ミステリー、となる。


〝紺屋S&R〟は、犬捜しを専門とする、はずの探偵事務所。
それが、思わぬ事情で一流大学→銀行の人生からはみ出した、
〝私〟紺屋所長が選んだ〝何かいい自営業〟だった。
だが、故郷の八保市に戻り、事務所を開業した〝私〟のもとに飛び込んできたのは、
人捜しに、古文書の調査と、なぜか犬捜しとは縁遠いものばかりで…


正直なところ、微妙というのが読み終えての感想だ。
一人称で語られる物語は、基本的にはハードボイルドの体裁。
そして、志半ばにして故郷へ戻らざるを得なかった〝私〟の、
無念と無気力をにじませた独白が、青春っぽい雰囲気を醸し出す。
事件を解決していくに連れ、〝私〟が失意から立ち直り、成長していく。
紡ぎ出される言葉の数々は、なかなか悪くないな、とは思う。
ミステリーの部分についていえば、説明くささは気になるが、
定番的手法である、さまざまな謎が次第に集約されていくあたりは、
まずまず読み応えがあるんじゃないかと思う。
オチ、と書くと無粋だが、ミステリーそのものの趣向としては、
なかなかニヤリとしてしまうような読後感を残していると思う。


しかし、高校の剣道部の後輩、半田の使い方がどうもいただけない。
探偵助手を買って出た〝俺〟半田の一人称語りの視点が加わることで、
どこか物語の焦点がぼやけていく感覚が強くなっていく。
で、正直この半田くんのキャラクターが薄っぺらいせいで、
もともと淡泊めのストーリーそのものが、さらに薄味になっていってしまうのだ。


ただ、薄味だからといって、決して読みやすい小説ではない。
〝私〟紺屋の行動の理由づけ、そして謎解き、
物語、そして感情表現ののさらっとした感触と比べると、すべてが説明っぽい。
だから、どうしても作品そのものとしてのアンバランスさが目立つように感じるのだ。


もちろん、多くの人から支持を受ける理由はよくわかる。
青春ストーリーとてのさわやかさはなかなかだし、
ミステリーとしても、読んでいて「むむむ…」となることもない。
ハードボイルド的な語り口についても、まずまず好感が持てる。
気になる叙述も、そこかしこに点在している。
だが、読んでいて、どうしても夢中になることが出来なかったのも確かだ。
まあ、僕とは肌が合わなかった、ということだけかもしれないが…


そんなわけで、前述の通り、感想は微妙。
(勝手に)期待をしていただけに、残念というか、何というか。
ほかの作品もう一冊読んでみようかどうか、ついつい悩んでしまうのだった。